貴布禰神社石造唐獅子(きふねじんじゃせきぞうからじし)
江戸時代後期(18世紀末)になると神社の参道に石造狛犬が置かれるようになりますが、貴布禰神社の石造唐獅子は鳥取県最古の天明4(1784)年の年号を持つ参道狛犬であり、その最初期として他に類例を見ない独自の形態のものです。なお、石造唐獅子の奉納に関する寄進札も同社に保存されており、指定物件の価値を裏付ける資料として附指定されました。
(吽形) |
(阿形) |
文化財の特徴
拝殿に向かい右手に阿形、左手に吽形を配した一対の石造唐獅子(狛犬)です。
全体的に犬顔であり座型の蹲踞姿勢の唐獅子で、前足を伸ばして、後ろ足を納め座っています。吽形は、鼻面が長く伸びて鼻先が大きく膨らむ獅子鼻。頭はやや平たくV字状に眉が伸び、目は四角で吊り上がり気味で瞳の表現はありません。口周りは筋彫りで丁寧に縁取りされ、奥牙と前牙があり、顎髭が細かく筋彫りされています。耳は目の後方側面から靡くようなたれ耳。頭部には角は無く、髪形が特徴的で、毛先が万年筆のペン先状に表現されています。髪の毛は縦に筋彫りで等間隔に彫られ、毛先は直線的に切り揃えられています。後頭部には巻き毛があり、筋彫りされた紐状の飾り物を囲み、全国的に類例のない特殊な髪形です。尾は巻き毛状で、うち1本が立尾。両前足の付け根と両後ろ足の踵にねじれ毛が後方へ靡くように彫られています。唐獅子と一体となる盤座で、その下に願主や世話人などを側面に彫った台座があり、上部に盤座をはめ込み動かないように工夫されています。保存状態のよい阿形の台座は二枚を前後の側面で合わせています。こうしたはめ込み式の台座というのは殆ど見られません。阿形は頭部の口の鼻から顎部を欠損していますが、残存する破片でみると奥牙と前に小さな牙そして間に5本の臼状の歯、前歯も4~5本程度彫られています。他の石造唐獅子の形式に当てはまらない独自形式の唐獅子です。台座前部の中央に「天明四歳」の紀年銘が見え、台座側面には願主や世話人の名前が刻まれています。使用石材は、地元戸上に産する凝灰角礫岩と推定されます。
吽形:高さ84センチメートル、阿形:高さ83.3センチメートル
制作年代について
貴布禰神社は、創立年代不詳だが深田氏の車尾開拓に伴い、鎌倉時代に遡る
ことができる旧村社です。鳥取藩内の神社の所在地等を宗旨庄屋がまとめた
『神社御改帳』のうち、嘉永4(1851)年会見郡の貴布祢神社の項に、天明
4(1784)年作の石唐獅子1対が記されており、江戸時代からあったことが
わかります。平成22(2010)年に鳥取県立博物館が実施した狛犬調査によ
り確認されました。
見学について
貴布禰神社境内に安置されています。直接触れないようにご覧ください。
米子市車尾5丁目7番41号
掲載日:2020年11月4日