旧米子角盤町郵便局舎 (きゅうよなごかくばんちょうゆうびんきょくしゃ)(YORAIYA角盤)
旧米子角盤町郵便局舎は、鳥取県米子市角盤町3丁目に位置する昭和10年(1935)に建築された特定郵便局の局舎です。昭和59年(1984)まで郵便局として使われ、平成元年から令和3年4月まで一階の南側土間を利用して角盤文庫(本屋)が営まれていました。その間に建物の荒廃が進みましたが、平成26年度に特定非営利法人夢蔵プロジェクトに無償譲渡され、地域のコミュニティ施設として保存・再生が図られています。
「特定郵便局」とは、明治時代に郵便制度が発足した際に建てられた郵便局の種類で、地域の有力者が土地と建物を無償提供し、自ら特定郵便局長となったものです。当初は自宅の1室を改造して郵便局としていましたが、新たに別棟の局舎を建てるようになると、当時流行した西洋風の洋館が建てられ、ハイカラな局舎が全国に多く見られました。
現存する局舎は、寄棟造り・妻入り・赤桟瓦葺き木造二階建てで、一階の規模は間口3間、奥行き5間半です。建築当初と思われる図面が見つかったため、当時の間取りや部屋の用途も明らかとなりました。建築当初の一階は、南側3間を郵便局店舗とし、玄関側1間のロビー(公衆室)と奥側2間の事務室を受付台で隔てており、電話室、小包保管室もありました。北側2間半は宿直室で、西側に出入口がついていました。さらに付属屋として、食堂と湯沸場、浴室と便所が続いていました(現存せず)。二階の規模は間口3間、奥行き4間で、通りに面した南西側には6畳の宿直室と2畳の小間があります。北側には床・棚・押入が付く8畳の応接間があり、長押や欄間が付く上質な造作となっていました。二階はすべて竿縁天井で、改修がなく、残存状況は良好です。屋根裏の小屋組は和小屋で、軒の出は短く、軒裏は垂木を見せず化粧板で隠し、瓦は赤桟瓦です。
外観は下見板張で二階窓上部だけ白漆喰塗りです。窓はガラス戸となっていますが、縦長の上げ下げ窓でなく、両開き窓や引き違い窓です。外観上の変更点は、下見板張りは一階窓枠に残る痕跡から爽やかなミントグリーンのペンキで塗り直されました。また、南側正面の出入口は建築当初のイメージに添うような木製のガラス戸としています。
内部は、一階部分については、天井部分の部屋の間仕切りであった小壁やモールを残し、往時の間取りを想像することが可能です。二階は壁面の耐震改修を行っていますが、主室の間取りは建築当初のままです。このように、地元で親しまれていた郵便局舎の外観の保存を目指して復原的に改修され、内部も傷んでいない部材を残しながら改修が行われています。建築面積は56平方メートルです。
旧米子角盤町郵便局舎は、全体としてはペンキ塗りの下見板張り以外に洋風の要素がなく、昭和初期に地方大工が洋風に仕上げた軽明な洋館の郵便局舎と位置付けられます。米子の旧城下町の中で同時期に建てられた洋館は、いずれも鉄筋コンクリート造・石張りもしくはレンガ風外観の本格的な洋館です。一方、旧米子角盤町郵便局舎のような木造の洋館は現存しておらず、町家が建ち並ぶ旧城下町の町並みの中でアクセントとなる重要な建物です。
現在はシェアキッチン・オフィス、コワーキング・レンタルスペースとして活用できる地域の多機能複合交流施設「YORAIYA(よらいや)角盤」として令和6年4月より運営されています。
正面(南面)外観
側面(南西面)外観
米子角盤町郵便局舎平面図
掲載日:2025年3月24日