第8回 命のはじまり ー米子の周産期医療―

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第8回 命のはじまり ー米子の周産期医療―

日本の出産を取り巻く環境

日本の周産期(※注)医療は諸外国と比較しても優れており、世界的に見ても最高水準の医療が提供されています。事実、妊産婦の死亡率、新生児の死亡率は諸外国と比較しても極めて低く、最も高い国と比較すると妊産婦では約270倍、新生児では約50倍のリスクの違いが報告されています。
このように安心して出産できる日本ですが、近年は分娩取扱施設の減少によって、通常の分娩すらままならない地域が発生していること、晩婚化に伴うリスクの高い高齢出産の増加など、課題が山積しており、医療機関と自治体が一丸となって対策を講じなければいけないのが全国的な現状です。
※注)周産期…妊娠22週から出生後7日未満までの期間

安心できる米子の周産期医療

このような日本の現状の中で、米子市には非常に恵まれた周産期医療環境があります。産婦人科・産科医師数は、鳥取県としては人口10万人あたり(15歳から49歳の女性のみ)61・2人と全国最多であるとともに、米子市は、県内最多の産婦人科・産科医師数であり、同様の指標では118・8人と突出しています。産婦人科系診療所数に関しても10万人あたり5・36か所と、全国平均と比較しても多く、全国的に問題となっている、分娩施設の減少による通常分娩を行なえなくなる心配も少ない地域といえます。
安心して出産に臨めるのは、医師の数や、施設の数だけではありません。米子市は高齢出産をはじめとしたハイリスクな出産、その後のケアに関する医療体制も整っています。現在、国内の周産期医療は産科領域以外の急性期疾患を合併する妊産婦にも最善の医療が提供できるよう、国の指針に基づいて都道府県単位で整備が行なわれています。
私たちの身近にある鳥取大学医学部附属病院は、鳥取県全域を含む医療圏の周産期医療の中核を担う「総合周産期母子医療センター」に指定されており、地域医療の最後の砦とりでとして、各病院と連携を図りながらリスクの高い分娩、緊急時の受け入れを行なっています。そのため、近年増加し続けているハイリスクな高齢出産についての心配も少なく、安心して出産に臨むことができます。
このように、米子市は、病気やケガをした時だけではなく、出産という場面においても、安心できる土台が整っている魅力的な地域だと言えます。


<写真>鳥取大学医学部附属病院内にある総合周産期母子医療センター

『誰かがやらなければならない』という思いから ―産期医療を支える現場人―

充実した米子の周産期医療を支える現場人として、今年の4月から鳥取大学医学部附属病院総合周産期母子医療センター長に就任された谷口文紀さんにお話を伺いました。
谷口さん

医療圏の周産期医療環境

鳥取県は人口が少ないことで知られていますが、総合周産期母子医療センターの医療圏では人口の少なさが逆にメリットとなっており、機能的でコンパクトな医療圏として整理・集約されているため、非常に連携の取りやすい環境となっています。これにより、最も避けなければならない緊急患者のたらい回しもなく、迅速に受け入れることができています。その中でも特に米子市は、医師数、病院数ともに多く、当センターとの連携も取りやすいため、医療環境に恵まれた地域と言えます。

地域の医療体制

医療圏の病院とは、当センターを中心とした医療連携体制を構築しています。県内の各産婦人科との緊密な連絡はもちろん、米子市内の各産婦人科病院が当センターの空き病床数を確認できるシステムを導入しており、患者の受け入れをスムーズに行なえるような体制を整えています。また、生まれてきた赤ちゃんの状態によっては、近隣県の総合周産期母子医療センターに搬送するなど、各大学病院の得意分野を活かした万全な連携体制を整えています。
当センターでは、昨年分娩室をリニューアルしました。リラックスして出産に臨んでいただける空間づくりと、最新設備の導入、緊急時に迅速に対応できる動線の確保と、快適空間と機能面を両立した出産環境を完備しています。


<写真>木目調で温かみのある分娩室

過酷な現場での原動力

「誰かがやらなければならない」という使命感から周産期医療に臨んでいます。
医療レベルの向上により、昔は助けられなかった症例も、現在は助けることができるようになってきています。例えば、700gで産まれてきた赤ちゃんも、大きくなり無事退院する子もいます。産まれてくる命は確実に救わなければいけないという思いのもと、一丸となって医療に取り組んでいます。
また、全国的に産婦人科医の高齢化が進んでおり、次世代を担う産婦人科医の減少が危惧されています。将来の安心できる周産期医療環境を確保するために、若い人材の確保と育成が必要です。さらに、30代以下の産婦人科医の約7割が女性医師という背景を鑑み、彼女たちがより働き続けやすい環境づくりをしていく必要があると考えています。

あるべき姿をめざして

総合周産期母子医療センターは難しい症例が多いからこそ、安全で迅速な医療を心がけていますが、その中で最も『連携』が重要だと考えています。各産婦人科病院、新生児科、他大学、互いの連携・協力体制の上で成り立っているこの医療体制は誰が欠けても成り立ちません。出産に伴うリスクは、産まれる前に判ることもあれば、産まれないと判らないこともあります。万全な医療体制のもと、かけがえのない小さな命を救うため、最善の医療を提供していきたいと考えています。

未来を担う医療人へ

生命が生まれることに携わることができるのは非常に意義深いことです。赤ちゃんが生まれることをきっかけに、家族みんなの人生が変わります。母子ともに健康で出産を終えるのが当たり前と思われている中、期待に応えなければならないというプレッシャーもありますが、そんな場面に関われることは本当に特別なことだと感じます。 
正常な分娩や、妊産婦のケアなど出産における助産師の役割も非常に大きなものがあります。それぞれの役割を通して、元気な赤ちゃんを産む下支えをする仕事が周産期医療です。私自身、『生まれ変わって、もう一度医師になったとしても、また周産期医療に携わりたい』と、そう強く思います。

掲載日:2019年8月30日