セントロ・マントロ
…昔、ある所に怠け者の兄と働き者の弟がおったそうな。兄は一日中ごろんごろん寝てばかりいたが、弟は朝早うから山に行って畑仕事をしていた。
ある日の夕方、弟が山から帰っていると、遠くの方で「トッツコウカ、ヒッツコウカ」いう声がし、それがだんだん近づいて来た。弟は怖いのをがまんして「トッツカバトッツケ、ヒッツカバヒッツケ」と言い返した。すると、とたんに背中に負った竹かごが重くなった。大急ぎで家に帰ってかごの中を見たら、なんと金銀が山ほど入っとった。それを見た怠け者の兄が「明日はおらが山に行く」といった。次の日、山に行った兄は1日山で寝ていたが、ころ合いをみて夕方家に帰りかけた。すると昨日と同じように山の方から「トッツコウカ、ヒッツコウカ」の声がした。兄はすぐに「トッツカバトッツケ、ヒッツカバヒッツケ」と叫んだ。案の定、背中の竹かごが重くなった。喜び勇んで家に帰ってかごの中を見たら、かごの両端が破れ、中の物はそこからこぼれ落ちて何もなかった。あわてて山道に戻った兄が見たものは、何と道の両端に帯のように咲き並んだ花だった。何の花が咲いとったと思う?エッ金の花?いんや、それはなあ、夢のような月見草の花だったと。…
「取っ付くひっ付く」という題の昔話です。
7月の中旬から下旬にかけて、月見草の花ではありませんが、法勝寺川下流の村々では川の岸辺に竹筒で作った灯ろうに火が点されます。火の帯が水面に映って揺れ、夢のような世界が出現します。地元の人はこれを「セントロ・マントロ」(千灯篭・万灯篭)といって年中行事にしておられます。集落によって行われる日が違うのも変わっています。
15・16日は秋葉神社、24日は愛宕神社の縁日で、この年中行事の最初の火は、村々の山中に祭られている秋葉社や愛宕社から受けて降りられたそうですので、セントロ・マントロの起こりは、秋葉さん、愛宕さんの火祭りだったと思われます。いずれも火防せの神様ですので、火災の起こらないことを祈念してはじめられた行事だと思います。
夢のような年中行事です。

尚徳地区の千灯篭万灯篭(写真提供:尚徳公民館)
平成15年7月号掲載
掲載日:2011年3月22日