乙姫様の贈り物
ある時、日と月と雷が連れ立って旅に出たそうです。ところが雷は道中ピカピカゴロゴロ何ともにぎやかで、日と月はあきれていました。夜になり宿に泊まりました。あくる日、日と月は朝早く雷の寝ている間に宿を出発してしまいました。遅く起きて、日と月が早々に出発したことを聞いた雷は言いました。「いや月日が経つのは早いもんだなあ」
全く月日が経つのは早いもので、もう師走になりました。
…昔、赤谷(現在の西伯町)で紀の何とかいう人が住んどったそうな。その頃は米子の町よりも粟嶋千軒言うてにぎわっとったそうな。紀の何とかさんは、その粟島に毎日赤谷から割木や炭を負って出て、売っておったそうな。だども毎日全部売れる売れるわけではない。粟嶋から戻りしには売れ残りの割木を、尻焼川(法勝寺川下流部)の淵に「残り物ですみませんけど、あの、龍宮の乙姫様これをお使いください」言って投げ込んでいたそうな。
ある年の師走のこと、雪もちらちら舞う寒い日、紀の何とかさんはいつものように売れ残りの割木を、乙姫さんに、と言って投げ込もうとしたその時「もし、もし」と声を掛ける者がいる。振り返って見ると、きれいな女の子が立っていた。「わたしは龍宮の乙姫です。いつも割木を投げ込んでくれてありがとう。お礼にこれをあげる」といって七宝と金の臼をくださった。紀の何とかさんは、それを大事にしていたそうな。すると、彼の家には何となく自然に金がたまりだして、今の世に、紀の長者、といって語り継がれる大金持ちにならんしただと…
さて、話は始めの日と月と雷の旅に戻ります。
日と月に置いて行かれた雷は、いつ宿を立ったかといいますと、雷は言いました。
「おれは夕立にする」
どうぞよいお年を。

尻焼川の淵(富士見ヶ丘団地付近)
平成14年12月号掲載
掲載日:2011年3月22日