鹿島さん
家のネズミ
春寒のころになると、天井裏の「嫁が君」ネズミのことが思い出されます。
…昔、田舎のネズミと都会のネズミが仲良しになった。そこで都会のネズミが田舎の彼の家を尋ねた。彼は喜んで米や麦・粟などで歓待した。ところが都会の彼は「お前はこげな粗末な物しか食べとらんのか。道理で小まいしやせとる。うちに来い。ご馳走するぞ」とけなして帰った。
田舎ネズミが都会の彼の家に行くと、なる程暖房で家は暖かいし部屋はきれいに飾っとるし、食物は、と見るとバターにチーズ・肉と山のようにある。さて食事をしかけた途端、人間が入って来たので慌てて壁穴の中に逃げ込んだ。やっと出て行ったので、さて食べようとすると今度は猫が入ってくる。また逃げ込む。ご馳走の山を目の前にして、おちおち食べることができなかった田舎のネズミは、都会の彼にこういって帰った。「田舎は冬は寒いし食物も粗末だが、危険におびえることもなく、のんびり暮らせる。都会はこりごり」…
『イソップ物語』の中の一話です。
近世、米子港からは後藤家などの船で上方に多くの米が運ばれました。「米子米」といわれ、美味しさ抜群の米として人気があり、高価で取引されたそうです。
…ある時、米子米が鹿島家の米蔵から運ばれた時、米俵と一緒にネズミも大阪に運ばれ、大金持の鴻池の米蔵に入ったそうな。鹿島のネズミは鴻池のネズミとすぐ仲良くなり、遊んでいたが、やがて米蔵自慢の話になった。鴻池のネズミは「うちの蔵は壁が厚くて外からは噛って入れんが、お前の所の米蔵は田舎だけんチョロイもんだろう」といった。鹿島のネズミは「仲々どげして。うちの蔵も頑丈で外からは入れんぞ」
次の船便で彼等は米子にやって来て、鹿島の蔵を噛りはじめた。簡単に噛れる。大阪の彼は白信満々でいった「チョロイもんだ。じきに穴は開く」。ところが壁の中辺りまで噛ったところで、なんぼ噛っても前に進まんようになった。それどころか白慢の歯がぼろぼろになった。みると壁の中に金網が塗り込んであり、さすがの鴻池のネズミもかぶとを脱いだだと…
昨秋の地震で頑丈な造りの蔵も解体されだしました。さびしいことです。

立町2丁目にある鹿島家の蔵
平成13年3月号掲載
掲載日:2011年3月18日