賀茂神社の
宮爺さん
物見遊山でにぎわうゴールデンウィークになりました。
とんと昔にも、夢のような旅をした人がおられました。今月はその話です。
米子の賀茂神社には、昔、神社を毎日掃除をし、壊れた所を修理して神社を守っている老人がおりました。人はこの老人を、宮爺さんといって敬愛していました。実際宮爺さんは正直で、親切で、優しい人でした。
ある日、賀茂神社に祭られている神様が、この宮爺さんに会いに出て来られました。
驚いている宮爺さんに、神様は「お前の正直で純な心が前から好きだった。今日はお礼に、お前を別世界に連れていってやる」といって先に立って歩き、町の外に出られました。宮爺さんも神様の後を追って米子の町の外に出たところ、アッと思う間に今まで見たことのない土地に来ていました。宮爺さんはあっちこっちと珍しい景色を見て歩き回り、野原に寝そべりして、のんびりと丸一日過ごし、夕方また神様に連れられて米子に帰ってきましたら、まるで夢からさめたような気分になりました。
しかしそれが夢でない証拠に、米子に帰ってきた時、神様は一緒に過ごした記念にといって、神様が着ておられた衣服をその場で脱いで宮爺さんに与えられたのです。その衣服は、長さ5尺4寸8分(約1.64メートル)・柄は無地・色は茶色でまるで和尚さんの着る法衣のようでした。宮爺さんはそれを賀茂神社に奉納しました。今でも神主さんが大事に保管しておられる、と幕末に書かれた「伯耆志」という本にあります。
「伯耆志」は、宮爺さんが神様と思ったのは天狗ではなかったか、推理しています。
この話は当時有名だったのか、すこし違って伝承された話も残っています。
…宮爺さんがある夜、夢を見た。賀茂大明神が現れて「お前はまじめで正直で、よく神社を守ってくれる。そのお礼にこれをやる」といって、神様が身に付けておられた着物をその場で脱いで渡された。
宮爺さんは有り難くそれを戴き、喜んで踊っているうちに朝になり、夢はさめた。なんだ夢だったのか…起き上がって枕元を見たら、そこに夢で戴いた神様の着物があった。
今、その着物は宮爺さんの子孫が大事にしまっている…(「米府鬼話」)
加茂町にある賀茂神社
平成16年5月号掲載
掲載日:2011年3月22日