心を映す水
12月1日には、ぼた餅もちをつくって箸ではさみ、自分の額や鼻・あご・ひじ・ひざなど体のとび出た部分に塗って「師走の川にまくれ(転び)ませんように」と唱えてから、そのぼた餅を食べる行事がありました。「ひざ塗り」といいました。まことに奇妙な行事ですが、これは正月を前にして、水の神を祭る行事であったと考えられています。水は昔から日常の飲み水に始まって、稲を育てる田の水、体や心の汚れまでも流し清めてくれるものとして、人々は水の恩恵を受け続けてきています。1年の終わるときに、感謝を込めて水の神祭りをしたのでしょう。
…昔のこと。秋も深まったある日の夕方、太刀を腰にした大男が村の中を通りかかった。見ると大男の着物にはべっとりと血が付き、肩まで下がったざんばら髪も返り血を浴びてまっ赤に染まっていた。この大男、村人が飲み水にしていた清水の湧く池まで来ると、そのままザブンと池の中に入って、血に汚れた体をきれいに洗ってから、どこともなく立ち去っていった。その後村人が池をのぞいて見ると、不思議なことにあれほどの血を洗い流したのに、池はちっとも汚れたりにごったりしていなかった。それからは村人はこの池を「神池」というようになり、心の汚れた人がこの池に近づくと、あの大男の洗い流した血が水面に浮かび出て赤くにごるのだそうな…
日野郡日野町の山奥の池に伝わる話です。
大篠津町にある和田御崎神社には「元宮さん」といわれる旧社地があり、そこはうっそうと大木が繁る原生林で「御崎さんの森」といって親しまれ、米子市指定の天然記念物になっています。ここに清水の湧き出る古い池があって、湧き出た水は東に流れて海に入っていました。この川(御崎川)を流れる水は聖なる水・霊水で、心の汚れている者がこの水を口に含むとたちまちに祟りがある、と古くからいい伝えられています。
はや今年も終わります。皆さん霊水で身を清めて新しい年を迎えましょう。私は謹んで辞退させていただきます。
和田御崎神社の奥にある御崎さんの森
平成15年12月号掲載
掲載日:2011年3月22日