城山は、頂上付近のサクラ(ソメイヨシノ)が有名で、花見の時期には人気の場所です。


鉄門とソメイヨシノ
しかし、サクラだけでなく、長年、市民によって大事に守られてきたこの山には、たくさんの植物が生えています。
1993年の調査では404種の植物が確認されています。なかにはナンバンギセルやハカタシダなど、現在、各地で失われつつある植物もあります。
また、低地の植物から山の植物、暖かい地方の植物、海辺の植物と、さまざまな要素の植物が生え、米子城山はこの地方の自然の縮図といっても過言ではありません。
市街地に隣接する場所でありながら植物の宝庫となっている城山。しかし、アマチャヅル、アキチョウジ、ヒキオコシ、モウセンゴケ、コウモリカズラなど、滅亡してしまった植物も約30種類あります。
この城山の自然林そのものも文化財です。わたしたちは、歴史と同時に、この城山の豊かな自然も守り、伝えなければならないのです。
米子城山の植物観察コース
城山の植物を楽しむ4つのコースをご紹介します。
城山は標高90メートル程度の低い山ですが、季節によっては、スズメバチなど危険な生物がいる場合もあります。
十分に注意して、植物観察を楽しんでください。
シダ植物コース


中海展望台から内膳丸にかけてはシダの群生地
城山の森の中は、シダ植物の宝庫。
確認されている47種のシダには、コバノカナワラビ、ベニシダ、オニヤブソテツの群落や、ミドリヒメワラビ、シロヤマシダ、ハカタシダといった希少種も。
湊山公園駐車場から城山外周を歩き、中海展望台から城山に登って、内膳丸に向かい、二の丸の御殿御用井戸跡に下りてくる「シダ植物コース」では、特に中海展望台から内膳丸にかけて、たくさんのシダを見ることができます。
春の花コース
湊山公園駐車場から城山外周を歩き、中海展望台から頂上へ、頂上からは東登山口へと下り、枡形を通って御殿御用井戸跡へと続くコース。
早春にはセリバオウレンやヤブツバキが咲き、桜の時期には頂上がおすすめ。桜の後も、タチツボスミレ、オオタチツボスミレ、初夏にはツルカノコソウやムラサキケマンなど、歩くたびにさまざまな花が咲いています。もちろん、夏や秋に歩いても、その季節のいろいろな花を見ることができます。


本丸石垣とソメイヨシノ




また、5月にはタンポポが黄色い花を咲かせますが、城山一帯で咲くのは、在来種のケンサキタンポポです。帰化植物のセイヨウタンポポが多い中、次第に貴重になってきた在来種のタンポポですので、見かけたらよく観察してみてください。
花のつけ根(総苞外片)が外側にそり返っているのがセイヨウタンポポ、そらずにまっすぐなのが在来種です。
樹木コース
さまざまな木を観察するコース。
城山は、スダジイを中心とした照葉樹(常緑広葉樹)の林が発達しています。また、斜面にはシラカシ林、タブノキ林、カゴノキ林が入り混じり、その中にイヌシデやエノキ、ムクノキ、カラスザンショウなどの落葉樹林もあるという、木の観察にはおすすめの山です。
国道9号から城山外周を中海展望台まで、中海展望台から城山に登り、内膳丸を経由して御殿御用井戸跡に下りるコースです。
植生コース
城山には、暖かい地域に生えるヤマモモ、クロガネモチ、ヒメユズリハ、海岸地域に生えるヤブニッケイ、トベラ、マサキ、山に生えるイヌシデ、シラカシといったさまざまな地域の要素を持った植物が生えています。
また、シャシャンボやコバノニセジュズネノキ、カゴノキといった、中海に面する山や神社の森を特徴づける木が城山には集まっています。
このほか、ヤダケ、セリバオウレン、シュウメイギクなど、城があったころに人が植えた植物が自生しているのも見逃せません。
こういったいろいろな植物の生えかたを観察するのが、この「植生コース」です。
湊山公園駐車場から西登山口へ、西登山口から頂上を目指し、頂上から中海展望台を経由して、城山外周を国道9号に向かいます。
植物観察コースマップ
植物観察コースと、コース上の代表的な植物を地図にしました。
城山散策にお役立てください。
(地図をクリックすると、新しいウィンドウでPDFファイルが開きます。)

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米子城山に自生する珍しい植物
城山一帯では、環境の変化などにより全国でもその数が少なくなっている植物や、珍しい植物を見ることができます。
そんな植物のいくつかをご紹介します。
もし、これらの植物を見つけたときは、枝を折ったり、植物を持ち帰ったりしないでください。自然を保存し、次の世代に伝えていくことが、わたしたちの大事なつとめです。
樹木
コバノニセジュズネノキ(アカネ科)
正月の縁起物として飾るセンリョウやマンリョウと同じように赤い実がつく植物ですが、センリョウはセンリョウ科、マンリョウはヤブコウジ科です。
コバノニセジュズネノキはアカネ科で、センリョウ・マンリョウとともに飾られるアリドオシ(別名:イチリョウ)と同じ仲間です。アリドオシと同じように、歯の付け根に鋭いトゲがあります。
ホソバイヌビワ(クワ科)
比較的暖かい地方に分布する落葉の低木。
イヌビワの変種で、その名のとおり、イヌビワよりも葉が細長いのが特徴。
ビワよりもイチジクに似た実がなります。
シャシャンボ(ツツジ科)
ブルーベリーの近縁種です。
5月から7月に、白色の壺のような花を房状に多数咲かせます。秋に黒紫色の実をつけますが、ブルーベリー同様、甘酸っぱくておいしい実です。
米子市内では、彦名町の粟島神社に群生地があります。
フユザンショウ(ミカン科)
常緑の低木で、名前の由来は、冬でも葉を落とさないサンショウという意味です。
サンショウにくらべ、葉やトゲが大きいのが特徴です。やや湿った岩場や崖などに多く生えます。
花
セリバオウレン(キンポウゲ科)
山地の林に生える高さ10cmほどの多年草。葉がセリの仲間に似ているので「セリバ」の名があります。昔から根の部分が薬として利用されてきました。
城山にまだ色の少ない早春に、1センチほどの白い花をつけます。
ナンバンギセル(ハマウツボ科)
夏の終わり、ススキの根元を探すと、ピンク色の奇妙な植物が生えていることがあります。これが、花の形を西洋の煙管になぞらえたナンバンギセルです。ススキの根に寄生して、一切の栄養分をススキに依存している寄生植物です。
万葉集にある「道の辺の尾花がもとの思い草 今さらになど ものか思はむ」という歌の、「尾花」がススキ、そして「思い草」が、このナンバンギセルだといわれています。
ススキの野原が少なくなるとともにその姿を消しつつある、貴重な花です。
アキノギンリョウソウ(イチヤクソウ科)
アキノギンリョウソウは、「ギンリョウソウモドキ」ともいいます。ギンリョウソウにそっくりの、落ち葉が堆積した暗い木陰に群生する腐生植物で、葉緑素が全くなく、全体が白色です。
ギンリョウソウが梅雨のころに咲くのに対し、アキノギンリョウソウはその名のとおり、秋雨のころに見られます。また、めしべの柱頭がギンリョウソウは青っぽいのに対し、アキノギンリョウソウは白いことで見分けることができます。
ギンリョウソウやアキノギンリョウソウは、キノコではないのですが、別名「ユウレイタケ」とも呼ばれます。薄暗い林の中、白く浮かぶその姿を見ると、なるほどと思わせる呼び名です。
キチジョウソウ(ユリ科)
漢字では「吉祥草」と書き、この花が咲くとめでたいことがあるといわれます。
実際は毎年、花を見ることができますが、たくさん生えていても花が咲く株はごくわずかで、そのため花が咲くと縁起がよいといわれるようになったのかもしれません。
10月ごろ、15センチほどの茎が直立し、直径1センチほどの花が、下から上へと咲き上がっていきます。
シュウメイギク(キンポウゲ科)
昔、中国から渡来したといわれる植物で、観賞用に栽培される花です。
キクに似た花を咲かせますが、花びらのように見えるのは、がくです。また、シュウメイギク(秋明菊)という名前ですが、キクの仲間ではなく、アネモネに近い仲間で、英名は「ジャパニーズ アネモネ」といいます。
栽培品種のこの花が城山に自生しているということは、かつて城にいた人たちが植えていたということを物語ります。
シダ
ミドリヒメワラビ(オシダ科)
人里近くの日当たりのよい林に生育するシダ植物です。日照不足になると消えていきます。希少なシダで、城山にはわずかに残っています。
ハカタシダ(オシダ科)
暖地性のシダで、羽辺の中央に白い斑が入っています。
「ハカタシダ」の名は、博多に分布するからではなく、葉の筋のようすが博多で生産されていた織物「博多織」に似ていることからきています。
シロヤマシダ(オシダ科)
山陰地方では比較的珍しい常緑のシダです。
城山中腹に群生地があります。