一里松の妖怪
昔は、距離を示すのに一里(約4キロメートル)ごとに松が植えてありました。一里松といいます。鳥取から米子へ通ずる主要街道の山陰道にも植えてありました。旧米子町内では、今のJR境線博労町駅近くに一里松がありました。ここの一里松を基点にして、境往来、法勝寺往来、日野往来の一里松が植えられていたようです。
日野往来での次の一里松は、車尾街道を抜けて日野川を渡り、豊田集落(春日地区古豊千内)の入口・下豊田にありました。 この道は松江の殿様の参勤交代の道でもありました。
豊田の一里松は伐られて今はありませんが、話では、あまり高くはなかったけれども、直径は2メートルもあり、幹が空洞になっていたそうです。この松での話だと聞いとります。
…昔、豊田の若い衆が米子に買物に出掛け、陽が暮れてからこの一里松の下を通りかかったそうな。「ヘッヘッヘッ」と気味の悪い笑い声が頭の上でするので、声の方を見たら、何と松のてっぺんに白いざんばら髪の婆さんが腰をかけ、行燈の灯をとぼいて、その明かりで糸車を回しながら見下ろし、大口を開けて笑っとった。若い衆は腰を抜かして、はいながら家に帰った。その後、暗くなってから一里松の下を通る者は、その老婆に驚かされるようになり、暗くなってからはその前を通る者は居らんようになってしまった。
困ったことになった。村の人は庄屋さん家に集まって相談した結果、村に一人おる鉄砲を撃つ猟師さんに頼んで、何と撃ってもらわいや、ということになった。 妖怪の老婆を。
猟師さんは、お安い御用、とばかり簡単に承知して夜が更けるのを待った。案の定、一里松のてっぺんに糸車を回す老婆が現れた。猟師はねらいを定めて撃った。確かに命中しとるはずなのに、老婆は相変わらずニタニタ笑いながら糸車を回しとる。あわてて何発も撃った。が、老婆は平気な顔して笑っとる。はてなあ、何発も当たっとるだが何でかいなあ、よし、最後の一発はあの行燈の火をねらって撃っちゃろう、と思って猟師は撃った。明かりは一瞬にして消え、あたりは真っ暗闇になった。
次の朝、松の下を見たら、最後の弾で撃たれた古だぬきが死んでいたそうな…
豊田(春日地区古豊千内)の一里松は写真左下にそびえていた
平成12年3月号掲載
掲載日:2011年3月18日