大袋と
大国主命
師走に入ると、せからわしい音楽と大きな袋をかついだサンタクロースが登場しますが、日本にも似たような男はいましたぜ。
神代の昔、因幡に八上姫という絶世の美人がおられたそうですわ。この美人を嫁にしょうと出雲の神さんが、団体で求婚旅行に出かけた。その途中で、ワニをだまして皮をはがれた白うさぎが、反対の治療を教えられ痛くて泣いとるのを、おとんぼ(いちばん下の弟)の神で兄神の荷物をみんな持たされ、大きな袋にそれを入れてふらふらしながらやって来た大国主命に、優しく助けられた話はよう知られた話で。
そうこうして八上姫の家に行った。なるほどうわさに違わん美女。神々はのぼせ上がって、てんでに鼻の下をのばしてプロポーズするが、姫には意地の悪さがみんな見えとる。最後に出てきたのは大国主。汗を拭き拭きあまりの美しさにものも言わずに見とれとったら、姫は「わたしゃこの人が好き」とのたもうた。
兄神たちは悔しがった。何とか姫を我が物に、と悪知恵を出した結果が、大国主殺害計画。会見町の手間山の麓まで帰った時、兄神たちは「この山に赤いのししがおるので、追い落とすから下で受け止めよ」と言う。赤いのししとは真っ赤に焼いた大岩のこと。そんなこととはつゆ知らず、人のいい大国主ば、焼け岩を両手で受け止めたけえ案の定焼け死んでしまった。
兄神たちは大喜びしたが、母神は優しい大国主の死を悲しんで、何とか生き返らせようと、天に昇って親神に相談された。その結果、二人の女神の貝を使った薬のおかげで、大国主は生き返ったと。この時の焼け岩は会見町の赤猪岩神社に残っているし、治療の薬を流した池も西伯町の清水川にあって、この薬のせいでいまだに池水が濁っているそうですぜ。また、両手を広げて赤いのししを受け止めるために、大国主が持っていた大きな袋を置いた所が「大袋」(尚徳地区)だそうですよ。
さんざんえらい目をしてもらった八上姫だったけど、結局は大国主の正妻の須勢理姫の嫉妬がひどいので、彼女はすたこらさっさと因幡に去んでしまわさんしたと。
大昔の神さんの何ともはや、人間くさいこと。
大国主命が袋を置いたといわれる大袋(尚徳地区)
左の山が会見町の手間山
平成10年12月号掲載
掲載日:2011年3月18日