たこと皆生海岸
桜の咲きほころぶ春になりました。
とんとん昔のことです。 米子の近くに住んでいた猿が、春の陽に誘われて、皆生の海岸に弁当持ちで遊ぴにやってきたそうです。今なら温泉に入って、のんぴりするところでしょうが、その頃はまだ温泉は知られとりませんでなあ、青い海の彼方から寄せてくる波、返す波を追いかけて、キャッキャ、キャッキャと遊んどりました。あんまりおもしろそうに遊んどるので、それにつられて海の中からたこがのこのこと海辺に上ってきて、猿といっしょになって遊ぴだしたそうです。
やんがて昼になりました。猿は海辺に生えとる松の根っこに座り込んで、弁当を広げました。握り飯です。猿はうまそうに食べます。たこはそれをうらやましそうに、指、いや足を食わえて見ていましたが、がまんできなくなって、猿のほうへそろっと寄って、猿がほがみをしとる時に、長い足をニュッと伸ばして、握り飯の一つをヒョイと巻きつけ、すたこらサッサと海の中にかけ込んでしまいました。
猿の悔しがること。何とかしかえしをしてやらにゃあいけん。猿知恵を出いて考えました。そこで考えたのは、もう一つ残っとる握り飯をひざに載せたまま、うす眼をあけて昼寝で寝たふりをすることでした。一方、握り飯を食べたたこは、あんまりうまかったので、もう一つをねらって、ふらふらと浜に上ってきました。見ると猿は昼寝の最中。しめしめ、もう一つお握りが食えるぞ、と、たこはまたぞろ長い足を伸ばして握り飯を取ろうとしました。
その時です。寝ていたはずの猿が、パクッと大きな口を開けて、たこの足を食いちぎってしまいました。それも2本も食ってしまいました。
たこはぴっくりしたの何のって。 いやはや。 あわてて海の中にいんでしまいました。
それまでは、なんとたこもいかと同じように足は10本あったそうですが、皆生の浜で猿に2本食われてからは、たこの足は8本、ということになったんだそうですと。
護岸工事で砂浜を維持し、夏になるとたくさんの海水浴客でにぎわう皆生海岸
平成10年4月号掲載
掲載日:2011年3月18日