米子市民自治基本条例の特色は、「まちづくり」をとても大きな視点でとらえているところです。
今までは一般的に、「まちづくり」は基本的に市の仕事だと考えられてきましたが、よくよく考えてみると、この米子のまちの文化、風土、人の気風などを形成しているのは、市ではなく、むしろ市民の皆さんの日々の様々な活動であるという考えに行き着きます。
このため、この条例では「まちづくり」を市の仕事という枠内にとどめるのではなく、皆さん自身の日々の生活やお住まいの地域の活動等、民間活動も含めて次のように定義するとともに、身の回りの様々な活動に主体的に参加していただける人を増やしていくことで、市民が主体となったまちづくりが進んでいくとしています。
この条例の「まちづくり」とは、市民が、地域住民として、自らの暮らす地域について考え、自ら決定し、自ら責任をもって行なうすべての活動と、それに加えて、そうした市民の意思に基づいて、市が行なう都市機能の整備、サービスの提供などの活動を含めた米子市の地域づくりのあらゆる活動のことです。
(条例の解説書から)
東日本大震災で被害を受けられた被災地の人たちは、現在も、力を合わせて復興に向けてがんばっておられます。「まちづくり」というと良い面だけを考えてしまいがちですが、被災地で営まれるこうした活動もまた、「まちづくり」にほかなりません。
この出来事であらためて提起されたのは、地域における「自助」、「互助」の精神の大切さや絆や支えあいの必要性であり、この条例の最終的な目標も、こうしたことを尊重し実践する気風を地域に根付かせていくことにあります。
全国的に、まちづくりの制度や仕組みに重点が置かれている条例が多い中にあって、米子市民自治基本条例は、私たち市民一人ひとりが、地域を担う者として、いかに考え、いかに行動するのかという考えに基づいた事がらが中心に据えられています。こうした特徴を持つ自治基本条例は全国的にも珍しく、『「まちづくり」は「ひとづくり」から』という言葉もあるように、「まちづくり」では、「制度・しくみ」もさることながら、より良いまちになっていくためには、やはり「ひと」こそが重要であり大切であると考えています。
米子のまちは、山陰の商都と呼ばれ、人々がいきいきと活動するまちであり、こうしたまちの気風は、現在でも脈々と受け継がれています。この条例で示される「まちづくり」とそれを担う「ひとづくり」の考えかたは、他の市町村の自治基本条例には見られないものであり、米子のまちならではのものだと考えています。
この条例を作成する前段では、たくさんの市民の皆さんに、「今よりも住みよいまちを目指していくためにはどうしたらよいのか」という問いかけをし、ご意見を伺ってきました。意見の内容は様々でしたが、その中で多かったものが、「モラルが重要であり、人づくりが必要」「多くの人に、地域に関わっていくという意識を持ってほしい」「あいさつ運動や声かけ運動などを通して、人と人とのつながりをつくり、支え合っていける地域コミュニティをつくっていきたい」「市民だけが頑張ってもダメ。市役所(行政・議会)も頑張らないといけない。」「みんなが協力し合ってまちをつくる必要がある」といったものでした。
一人一人の価値観がさまざまに分かれ複雑になってきている現代において、誰かだけが頑張っていても、市民の皆さんが住んでよかった、住みたいと思えるような満足のできるまちはできません。市民の皆さんと市役所が頑張る。頑張るだけでなく、市役所も含めたいろいろな組織や個人がつながりを持って、有機的に機能していくことが求められています。
野球やサッカーなどといった団体スポーツで例えれば、勝利というチームの目的に向かって突き進んでいくためには、一人一人がチームに対して責任感を持って、そしてチーム内で協力し助け合ってプレーするというチームワークの精神が欠かせませんが、これは、まちづくりのときも同様であると考えています。
自らのまちが今よりも住みよいものになってほしいと願うのは、誰しもが一緒だと思います。しかし、そのような思いを実現するためには、地道にコツコツとチームワークの精神でまちづくりを進めていく以外に方法はなく、こうしたまちづくりが長い間の積み重ねによって文化として根付き、いつの日か米子のまちの力になるだろうと考えています。
この条例には、「将来のまちづくりの担い手としての子ども」という章があります。他の自治基本条例には見られない、米子独特の内容として盛り込まれています。
この条例を作成する前段で多くのかたから「子どもの育ち」に関するご意見をいただきましたが、多くのかたが、子どもの育ちに大きな関心を寄せ、また、子どもこそが、まちづくりの将来を託すべき存在であると感じているのだと思われます。
子どもの健やかな成長のためには、家庭だけでなく、地域、学校、市役所等との連携も非常に大切であり、このような環境づくりが重要となってきます。
当たり前のことですが、米子のまちづくりは今だけのものではなく、継続して将来に引き継がれていくものです。この条例では、子どもを「将来のまちづくりの担い手」として位置づけ、支え合いの精神で、そしてみんなで連携・協力して将来のまちづくりの担い手を育てていこうという内容となっています。
この条例では、市民生活に深い関わりを持つ小学校区や、又はそれよりも小さな自治会などの区域のことを、「身近な地域」としています。この条例を作成する前段で多くのかたから「身近な地域におけるまちづくり」に関するご意見をいただいたことや、「身近な地域におけるまちづくり」こそが米子のまちづくりの基礎であるという考えから、この条例では「身近な地域におけるまちづくり」と題して一つの章を設けています。「身近な地域」を寄せ集めたものが米子のまちであることを考えると、「身近な地域におけるまちづくり」は、この条例の一つの大きな肝の部分であると言えます。
「身近な地域におけるまちづくり」に関わりの深い組織としては、代表的なものとして自治会が、そしてその他にも子ども会、地区社会福祉協議会、PTA、地区交通安全協会など、さまざまな組織が挙げられますが、現在では、これらの活動が地域コミュニティを形成していると言っても過言でないのではないでしょうか。自治会をはじめとする身近な地域の様々な活動に参加することによって、その地域において助け合い、支え合うことのできる風土の大切さ・ありがたさ・すばらしさをみんなで理解していくことが、これからのまちづくりにとっては非常に重要となります。
一方で市役所には、これらの活動に対して「必要に応じて支援し、その際は適切な方法によります」という支援者としての役割を課しています。ここで言う「必要に応じて支援する」とは、「公共性が高い(みんなのためになる)、あるいは、公共課題の解消(みんなの困りごとの解決)につながると認められるものについて支援を行なう」ということです。
これからの時代の市役所は、米子のまち全体の政治・行政を行なっていくという役割だけでなく、それぞれの地域で頑張っている皆さんに対して様々に支援していくためのきめ細やかな対応がより一層求められています。
地域におけるまちづくりへの支援者として、これからいかに適切にその役割を担っていくのか…市役所が果たさなければならない役割は、今後ますます重要となってきます。その役割を果たしていくためには、地域の皆さんとともに考え、ともに悩み、ともに解決していくことのできる集団としての市役所にならなければなりません。