咳ばあさんの碑
…昔、ある寺に性の辛い小僧さんがおった。和尚さんが法事や葬式でもらったぼた餅を大事に戸棚にしまっておいたら、それを小僧は、こっそり一つ食い二つ食いして、また明日食う餅を庭に穴を掘って埋め、目印に松の小枝を立てておいた。次の朝、起きてみると何と大雪で、目印の松も雪の下。小僧はがっかりして「雪降れば 印の松も見えずして 中のぼた餅何としたやら」と歌を詠んだ。それを聞きとがめた和尚さんが「小僧や、今何というて詠んだ?」と聞かんした。小僧はあわてて「いや和尚さん、大雪になったけぇ、雪降れば印の松も見えずして 里の親たちゃ何としたやら と詠みました」といった。すると和尚さんは「ああお前は親孝行な子だ」いって誉めさんしたと。ほんにまあ…
明和6年(1769)には風邪が大流行したそうで、因幡ではこんな替え歌が詠まれました。
「これやこの 行くも帰るも薬取り 知るも知らぬも大方は咳」
「はやり風邪 医者も薬も吹き止めて 俵屋(有名な薬屋)ばかりしばし留めん」
ご存知百人一首の本歌取りですが、江戸の庶民のユーモアには脱帽です。
風邪といえば、今年の風邪ほど恐いものはありません。咳一つにも、昨春世界を震え上がらせた新型肺炎(SARS)かと疑われ、戦々恐々です。
治す薬がない時は、昔ながらの神様仏様を頼ってみたら。
西福原上谷にある「咳ばあさんの碑」を拝めば咳がよくとれるそうですよ。
昔、ここで畑を耕していたおばあさんが、畑の中に埋もれていた石を掘り起こし、畑の隅に転ばしておかれたそうです。ところがその夜から、おばあさんは咳が出て止まらなくなりました。行者に拝んでもらっても、医者に診てもらっても治りません。何日も苦しんだある晩、おばあさんの夢枕に地蔵さんが現れて言われるには「私は畑の中で祭ってもらっとったのに、掘り起こされて畑の隅のほうに追いやられて淋しゅうていけん。もう一回祭り直してくれ」あわてておばあさんは、その大石を祭り直しました。すると、あれほど苦しんだ咳が嘘のように治ったそうです。
村人は、この霊験顕あらたかな石の所に碑を立て「咳ばあさんの碑」と名付けて祭りました。
これがこの碑の由来です。エヘン。いやゴホン。
咳ばあさんの碑
平成16年2月号掲載
掲載日:2011年3月22日