唐王御前さん

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唐王御前さん
唐王(とうのう)御前さん

田植の頃になると、あぜ道や石垣をはう蛇をよく見かけます。今年は巳年のせいもあってか多く見るように思います。蛇は嫌われもの。中でもマムシときたら、毒もあって毛嫌いされ、怖がられます。
あぜ道を歩く時「ワラビの恩を忘れたか」と言いながら歩けば蛇が逃げてくれるといいます。それはこんな昔話から出ています。

…昔、蛇がカヤ(茅)の畑で昼寝していたら、寝とる間にカヤの芽が伸びて蛇の体を突き刺してしまった。驚いた蛇は逃げようとするが動けない。困っていると、ワラビが柔らかい芽を伸ばして蛇の体を押し上げ、助けてやっただと。それで蛇に出会った時「ワラビの恩を忘れたか」と言うと、蛇が逃げて道を開けるだと…

ところが伯耆では「マームシ・マムシ・ヨーケ・除け・唐王御前のお通りだ」と言うと、マムシが逃げて行くのだそうです。
マムシも逃げ出すという唐王御前とは誰のことでしょうか。 それは大山町唐王の神社に祭られているスセリ姫ノ命のことです。
話は、大国主ノ命が因幡国の美女・八上姫を得て出雲に帰る途中、兄神たちの邪心によつて、手間山で赤イノシシといって焼石を落とされ死んだ(第20話)。が、母神の尽力で生き返ったという『古事記』の神話から始まります。

…大国主は、油断していると兄神たちに殺されてしまう、いっそ黄泉の国にいるスサノオノ命を頼ったら、という母神の考えに従って黄泉の国に行った。ところが、最初に出会ったスサノオノ命の娘スセリ姫に一目ぼれ。 相思相愛の仲になってしまった。

父スサノオは、大国主が娘の婿にふさわしいかどうかを、いくつかの難題を出して試した。その一つが大国主を蛇のうじゃうじゃいる部屋に入れて一晩寝させるという難題。これにはスセリ姫が「蛇がとびかかってくれば、この布を3回振りなさい」といってくれた布のお陰で難なくクリヤーした…

唐王神社は、このスセリ姫ノ命を祭神にしているので、蛇や害虫除けの神社になったといわれます。
この神社の砂をもらって帰り、家の周りやあぜ道に撒くとマムシが来ない、といわれました。 また神社の分霊を勧請し「唐王御前」として各地で祭られています。
マムシの害がいかに多かったかを語る証でもあります。


諏訪神社にある唐王御前祠


大高地区にある唐王御前祠

平成13年5月号掲載

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掲載日:2011年3月18日

【利用上の注意】

掲載している昔話・伝説・言い伝えなどの民話は、地元の古老から聞いた話や地元での伝承話、また、それらが掲載された書籍などからの情報を載せているものですので、活用する際は次の点にご注意ください。

  • 民話は、ある程度の史実が背景にあったとしても、それが人々の想像の中で改変され、また、伝承の過程でさまざまな変化を遂げていきます。そのため、史実とは異なる内容、名称等が使用されている場合や学術的な裏付けがないものもあります。

  • 捉えかたにより、記載されている年号や年代、月日、読みかたなど、事実と異なる可能性があります。

  • 「過去の経験を後世に伝えたい先人の強い思い」として読みとるなど、「地域で語り継がれている事実」に着目することが必要となります。

  • 民話は、すべてが史実ではありませんが、地域にとってたいせつなものが含まれていると考えられます。

  • 筆者は、執筆に関しては、市内各地域をまんべんなく入れること(ただし、合併前のものなので淀江町域の話はありません。)、あまり血なまぐさい話は避けること、故人で忘れられている偉人を発掘し民話に託して語ること、などを心掛けて編集されています。