戸上山の藤内狐と尻焼川

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戸上山の藤内狐と尻焼川
戸上山(とかみやま)藤内狐(とうないぎつね)尻焼川(しりやきがわ)

江戸の昔のことです。戸上山(観音寺)には藤内という狐がいました。この狐、伯耆三狐の一狐だけあって、誠に化けるのがうまい。特に娘さんに化けたら天下一品。今も昔も男は鼻の下が長いもんで、べっぴんさんと見ると狐が化けているとは露知らず、何のかんのと言い寄り、金や品物で関心を引き、いい気になったところでそれらを巻き上げられ、手痛い目にあわされる男が大勢いたそうです。
そのうわさが広がると、今度は、我こそは性悪狐を退治せん、という若者が出るものの、目の前に匂うような番茶も出鼻が現れると、どいつもこいつも口ほどになく、へなへなとだまされて、全くだらしないありさま。
ある日、馬子さんが馬を連れて戸上の下を通りかかったら、絶世の美女が声を掛け、「米子の町まで馬に乗せてもらえまいか」という。 気のいい馬子さんは「あ、いいよ。 帰る道だけえ乗って行かんせ」いって、美女を乗せてやったその時です。馬がいつもと違って耳をピクピク動かせ、前足で地をかいたそうです。それに目ざとく気付いた馬子さんは、あ、これがうわさの藤内狐と察して、その気配はないかと見るに全くなく、見れば見るほど美しい。ほとほと、感心して「娘さんは美人だなあ」という。と狐は狐で鴨がまた引っかかった、とほくそ笑む。が、馬子さんは正体を見抜いているので「この馬は暴れ馬だけん、あんたが振り落とされんように縄で巻いとくで」いって馬にくくり付けてしまったそうです。
行く程に鍛冶屋があって、赤く焼けた鍬が見えた。すると馬子さんは大声で「鍛冶屋さん!この娘は藤内狐だけえ、その焼け鍬を尻に当てて見っされ!」狐は驚いて逃げ出そうとするが、がんじがらめに結わえ付けてあるので逃げもできず、尻を焼かれ正体を現して、これからは人間さまにはちょっかいを出さん、と約束させられて許されたそうです。
命からがら戸上に帰った狐は、前の川で焼けた尻を水に浸して冷やしたので、その川を尻焼川、と言いますだと。

3月1日から7日は春の火災予防運動週間です。
火の用心。


藤内稲荷と観音寺の米川取水口付近の法勝寺川(別名 尻焼川)

平成10年3月号掲載

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掲載日:2011年3月18日

【利用上の注意】

掲載している昔話・伝説・言い伝えなどの民話は、地元の古老から聞いた話や地元での伝承話、また、それらが掲載された書籍などからの情報を載せているものですので、活用する際は次の点にご注意ください。

  • 民話は、ある程度の史実が背景にあったとしても、それが人々の想像の中で改変され、また、伝承の過程でさまざまな変化を遂げていきます。そのため、史実とは異なる内容、名称等が使用されている場合や学術的な裏付けがないものもあります。

  • 捉えかたにより、記載されている年号や年代、月日、読みかたなど、事実と異なる可能性があります。

  • 「過去の経験を後世に伝えたい先人の強い思い」として読みとるなど、「地域で語り継がれている事実」に着目することが必要となります。

  • 民話は、すべてが史実ではありませんが、地域にとってたいせつなものが含まれていると考えられます。

  • 筆者は、執筆に関しては、市内各地域をまんべんなく入れること(ただし、合併前のものなので淀江町域の話はありません。)、あまり血なまぐさい話は避けること、故人で忘れられている偉人を発掘し民話に託して語ること、などを心掛けて編集されています。