夜見の地蔵さん

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夜見の地蔵さん
夜見(よみ)の地蔵さん

…昔、ある村の若者が隣村に行って盗みをしての戻りがけ、村境に立つ石地蔵さんに冗談半分で「地蔵さん、わしが泥棒したことを他人に言いなさんなよ」といった。すると地蔵さんが「わしは言わんが、われ(お前)こそ言うなよ」と答えた。びっくりした若者は、村に戻ると村人に、なんと村境の地蔵さんはものを言いなさる、とふれ回った。
それを聞いた人が、そげな馬鹿な、と笑うと「いんや、わしが隣村に行って…」と、つい若者は自分の悪事を自分でしゃべってしまい、捕まえられてしまったとや。その昔こんぽち…

「言うなの地蔵」と題する語るに落ちた昔話です。そんな地蔵さんの霊験にまつわる話です。

文化10年(1813)の4月のことでした。夜見村の庄屋さんが、突然得体の知れない病気にかかりました。体が焼けるように熱くなり、熱湯のような汗が滝のように流れ出ました。体を冷やす水はすぐ熱湯に変わってしまい、病気の苦しみにうめく声が門の外まで聞こえました。なんでだろうか、42才の大厄年だからか、心がけの悪いところがあったのか、いろいろ思い苦しみぬいて1週間過ぎた日の夕方、どこからともなくやって来た老僧が、庄屋の門前に立って、仏さんのお題目を大声で唱えるやいなや消えてしまいました。
そのことがあった日から病気はどんどん良くなり、健康になった庄屋さんは老僧が叫んだお題目を朝夕唱えていましたら、ある夜、夢枕に地蔵さんが立たれました。彼は有り難くて手を合わせて拝みながらも、お顔をしっかり見覚えました。記憶が薄れないうちにとすぐに石工さんを頼んで、夢に見たお顔に似せて石の地蔵さんを彫ってもらいました。それがこの夜見地蔵さんで、台座の銘文によりますと文化12年7月24日に建っています。
大正11年になって、この地蔵さんは縁結び・歯痛・腰痛などに霊験があるとうわさが立ち、爆発的に信仰されました。
当時の新聞によりますと、急ごしらえの自転車置場が数か所でき、露店が軒を並べ、参拝者休憩所ができる大にぎわいになり、遂には地蔵さんの前で踊り狂い、むしろを敷いて「お()もり」と称して一晩泊まり込む若者たちが現れる騒ぎになった、とあります。これほどの大騒ぎの熱も間もなくすっかり冷めてしまっています。ということは、このお地蔵さんの一番の霊験は「熱冷まし」かも知れませんな。


夜見町にある石地蔵

平成16年4月号掲載

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掲載日:2011年3月22日

【利用上の注意】

掲載している昔話・伝説・言い伝えなどの民話は、地元の古老から聞いた話や地元での伝承話、また、それらが掲載された書籍などからの情報を載せているものですので、活用する際は次の点にご注意ください。

  • 民話は、ある程度の史実が背景にあったとしても、それが人々の想像の中で改変され、また、伝承の過程でさまざまな変化を遂げていきます。そのため、史実とは異なる内容、名称等が使用されている場合や学術的な裏付けがないものもあります。

  • 捉えかたにより、記載されている年号や年代、月日、読みかたなど、事実と異なる可能性があります。

  • 「過去の経験を後世に伝えたい先人の強い思い」として読みとるなど、「地域で語り継がれている事実」に着目することが必要となります。

  • 民話は、すべてが史実ではありませんが、地域にとってたいせつなものが含まれていると考えられます。

  • 筆者は、執筆に関しては、市内各地域をまんべんなく入れること(ただし、合併前のものなので淀江町域の話はありません。)、あまり血なまぐさい話は避けること、故人で忘れられている偉人を発掘し民話に託して語ること、などを心掛けて編集されています。