海坊主の話

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海坊主の話
海坊主の話

これは『因幡怪談集』という、江戸時代に書かれた本の中にある話です。

…米子町の隣村に、何とかという男がいた。彼は村祭りの宮相撲に出ても、負けたことのない剛の者だった。
ある夏の日、その男は用事で米子に出かけ、真夜中になってから米子の海辺を一人のんびり帰っていた。その時、沖の方から星のように光りながら波に乗って来る怪物を見つけた。腕に覚えがあるので、その光る怪物を落ち着いてじっくりと眺めていた。
怪物はどんどん近づいて来た。周囲2尺(66センチ)ほどの棒杭のような形をして、眼らしきものが一つある。怪物も波の上に立ち止まって男をじっと見つめ、様子をうかがっているようだ。男は、上陸すれば捕まえるぞ、とばかり怪物をにらみ返した。
やがてのことに怪物は浜に上陸し、男に体ごともたれかかってきた。男は、得たりや応とばかりに怪物を捕まえては投げ飛ばした。怪物は力があるようには思えないが、いくら投げ飛ばしてもへこたれない。さんざん技を掛けるけども、ぬるぬるして捕らえどころがない。押せばたわたわと倒れ、放せばべたべたともたれかかる。何とも得体が知れない。さすがの彼もくたびれた。見ると怪物も弱って来ているようだ。
それから数刻、男はやっとのことで怪物を倒し、縄がないので着物の帯を解いて怪物をくくり、引きずって家に帰り、庭の柿の木に結わえつけておいて、男は疲れ果てて泥のように寝込んだ。
次の朝、怪物を前にして話し合っている近所の人の大声で眼をさました男は、外に出た。すると人々は、男をみてびっくり。あわてて鏡をみると、男は何と顔といわず手といわず、体中が墨だらけのまっ黒だ。男は昨夜の武勇伝を語るほどに、うわさを聞きつけた村人が集まり、怪物を囲んで評議する。が、この正体を知る者はいなかった。 ただ90才になる老人が、「これは海坊主ではないか、人をみればもたれかかり、体はぬるぬるし、さわると体がかゆくなるというがどげだえ?海辺を歩いとるとたまに出くわすことがある、と昔、爺から聞いたことがある」と話して正体がわかったと…


夕日像から望む中海(湊山公園)

平成13年8月号掲載

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掲載日:2011年3月18日

【利用上の注意】

掲載している昔話・伝説・言い伝えなどの民話は、地元の古老から聞いた話や地元での伝承話、また、それらが掲載された書籍などからの情報を載せているものですので、活用する際は次の点にご注意ください。

  • 民話は、ある程度の史実が背景にあったとしても、それが人々の想像の中で改変され、また、伝承の過程でさまざまな変化を遂げていきます。そのため、史実とは異なる内容、名称等が使用されている場合や学術的な裏付けがないものもあります。

  • 捉えかたにより、記載されている年号や年代、月日、読みかたなど、事実と異なる可能性があります。

  • 「過去の経験を後世に伝えたい先人の強い思い」として読みとるなど、「地域で語り継がれている事実」に着目することが必要となります。

  • 民話は、すべてが史実ではありませんが、地域にとってたいせつなものが含まれていると考えられます。

  • 筆者は、執筆に関しては、市内各地域をまんべんなく入れること(ただし、合併前のものなので淀江町域の話はありません。)、あまり血なまぐさい話は避けること、故人で忘れられている偉人を発掘し民話に託して語ること、などを心掛けて編集されています。