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第13回海外研修報告(平成14年度)

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第13回海外研修報告(平成14年度)

ハーバード大学医学部における基礎医学研修・・・伊澤 正一郎

オーストラリアにおけるライフセービング活動の現状視察報告・・・本田貴志・宮田 潤

アメリカの野生生物保護区などにおける野生生物教育についての研修・・・桐原 佳介

ハーバード大学医学部における基礎医学研修

訪問先  アメリカ合衆国(ボストン)
期間  平成14年7月29日から9月26日

伊澤 正一郎

私は、平成14年7月29日から9月26日の間、ハーバード大学医学部教育関連施設Joslin Diabetes Center(ボストン市)において研修を受ける機会を得た。Joslin Diabetes Centerは、1898年に創立された世界屈指の糖尿病センターである。糖尿病治療を中心とした医療を提供するだけでなく、糖尿病に関する先端研究を総合的に行う研究施設として世界中に知られている。私は、ボストン市近郊にあるニュートン市のホロビッツ家にホームステイさせていただきながら、服部正和先生の御指導のもとに糖尿病研究の基礎を学び、研究活動に参加させていただく機会を得た。
最初の1月は、研究活動へ参加するための準備期間にあてた。Joslin Diabetes Centerで研究活動するために必要なトレーニングプログラムを受講した。特に私は、マウスを扱う実験に関わるので、動物実験の倫理、微生物の動物間伝染、ヒトへの感染対策などの危機管理について受講した。受講後には試験があり、その合格により研究活動を開始できた。
その後約3週間、研究に必要な実験手技を学んだ。マウスのケア、遺伝子研究に必須な技術の習得、顕微鏡標本の作成法などである。これらの活動は、当然ながらすべて英語で行われたため語学の面でも苦労したが、とにかく積極的に取り組むことを心掛けた。
以上の準備段階を終え、いよいよ私独自のテーマが決まることになった。長年にわたり、服部研究室に滞在した学生は糖尿病の合併症として良く知られている糖尿病性腎症の原因遺伝子に関する研究を行ってきている。これまでの研究により、糖尿病性腎症の発症には糖尿病発症に関わる遺伝子だけではなく、腎臓の病変形成に関わる遺伝子の存在が不可欠であることが確かめられている。また、その遺伝子の存在部位も特定されつつある。さらに、腎臓病変の程度と遺伝子型の相関も確かめられてきている。
この腎臓病変の実体は、糖尿病により高血糖が持続することによる動脈硬化が要因であると考えられている。私は、腎臓病変が動脈硬化によるものであるならば、他の臓器や血管でも同様な動脈硬化が起こっているはずであるとの仮説をたてた。そこで、心臓の冠動脈と大動脈の動脈硬化の程度、遺伝子型、腎臓病変との相関を検討することにした。
過去に服部研究室で研究された皆さんのおかげで、私が行った研究活動は、

  1. 保存されているマウスの心臓と大動脈から冠動脈の断面を観察するための標本を作成し、光学顕微鏡でその組織観察をすること

  2. 遺伝子型の決定が終わっていないマウスについて、その遺伝子型を決定すること

であった。今まで誰も取り組んだことのないことを自分のたてた仮説のもとに検証するということで、苦労の連続であった。組織所見をまとめ、動脈硬化の指標としてよく用いられる動脈硬化指数を算定するところまでどうにか達成することが出来た。残念ながら、遺伝子型との相関、インスリン抵抗性などの検査データとの相関、腎臓病変との相関を確かめるまでの時間はなかった。しかし、先天的に糖尿病を発症しやすい遺伝的素因を持ったマウス、正常マウスと比較し、両者の遺伝的素因を持ったマウスが動脈硬化の程度が有意に高いことを発見した。
以上の研究は、まさに開始されたばかりであり、今後データを蓄積しながら検証して行くことが必要である。私は時間が許せば、再度渡米して研究を進めたいと考えている。
今回のボストン滞在期間中には、研究室での活動以外でも貴重な体験をすることが出来た。渡米直後に訪問したJoslin Diabetes Center主催の小児糖尿病患者のためのキャンプでは、子供達の元気の良さとそこで働く人たちの病気との付き合い方を知ることが出来た。独自のキャンプ場を持ち、全米各地から毎年500人もの子供達を受け入れている。このキャンプは77年の歴史があり、様々なレクリエーションを通じて、糖尿病についての正しい知識の教育と、同じ立場にある子供たちの交流を目的としている。また、Massachusetts General Hospitalで毎週木曜日に行われているCase Records of Massachusetts General Hospitalの聴講や、Joslin Diabetes Centerで度々開かれるセミナーを通じて、医学や医療に関わる多くの先端的知識を得ることが出来た。
今回の滞在では、多くの方々の親切なお心づかいのもとに貴重な体験をさせていただいた。特に実験などの経験の少ない私を丁寧に指導して下さった服部研究室の皆さんや、ホームステイ先のホロビッツ家の皆さんのおかげで約2ヵ月の滞在が充実したものとなった。彼らとの交流を通じて、アメリカの医学研究、医療がどのようにして行われているか、その一端を見ることが出来たことは、今後の学習や卒業後の医療従事者としての活動に役立つものと確信している。私は、医学部5年の学生である。将来は世界の新しい動きに目を向けながら、地域の皆さんにより良い医療を提供できるよう今後も努力していくつもりである。

オーストラリアにおける
ライフセービング活動の現状視察報告

大切な人を守るために

訪問先  オーストラリア(ゴールドコースト)
期間  平成15年1月9日から17日

本田貴志・宮田 潤

はじめに

毎年、数多くの観光客・旅行客が米子市を訪れる。また、夏になれば皆生温泉海水浴場にも県内外から多くの遊泳客が訪れ賑わいを見せている。しかしながら、毎年何らかの事故やけがが起こっているのも事実である。
私(本田)は、大学時代にライフセービングに出会った。『ライフセービング』とは、水辺での活動を安全に楽しく過ごせる環境作りのための事故防止を目的とし、救助活動・広報活動・教育・普及活動等を含めていう言葉である。一般の人には、『監視員』という言葉の方が理解しやすいかもしれない。
米子に来て10年になるが、何とかこの活動を広め、安全な海水浴場の提供ができないものかと暗中模索しているときに、地元のトライアスリート達が自分たちにできることはないかと相談してくれて『皆生ライフセービングクラブ』が1999年に発足した。
当時、救助技術やそれに関する知識を知っている者はほとんどなく、監視活動のみが活動の主体であった。しかしながら、年を追うごとにクラブ員の自覚も出てきて、ライフセーバーの資格等を取得するなどしてクラブ員の意識や技術・知識の向上が見られるようになってきた。
一方、日本でのライフセービング活動は約30年前に神奈川県湘南海岸で始まり、現在では関東地方を中心に全国約50の地域型ライフセービングクラブが全海水浴場の10%で監視活動や普及活動を行っている。
また、世界的に見れば、イギリス植民地時代にオーストラリアにわたったイギリス人が、海水浴者の監視活動を始めたのが最初であるといわれており、今から約100年前のことである。現在では、オーストラリア全土に282のクラブがあり、海水浴場はもとより湖、河、プールなど遊泳可能な場所はすべてを監視している。また、ライフガードという職業があり消防や警察と同じ公務員として発展しているという点も独特であるといえる。
私は、このようにオーストラリアのライフセービング活動が、どのように普及・発展し、現在に至ったのか、また、地域住民や観光客等へのサービスの提供や行政とのコミュニケーションはどのようにして行われているのか、実際自分の目で確かめて見たいと思いました。この思いに今回同行する宮田 潤氏も賛同してくれて2人での応募・参加となった。
決定通知後、皆生ライフセービングクラブのメンバーと協議の結果、我々と一緒にオーストラリアにおけるライフセービングシステムを勉強し、今後の米子市、また自分自身の知識や意識の向上のため、全額自己負担という条件の中、5名のクラブ員が同行することになった。(野嶋 功・武田 直人・口田 保・三代 武士・福田 陽子)
周知の通り、オーストラリアにおけるライフセービング活動は世界でもっとも盛んな国の1つにあげられている。さらにそのオーストラリアの中でも活動が盛んでまたライフセービングクラブと地域の関わりが充実しているゴールドコースト市のサーファーズパラダイス地区にあるライフセービング活動を研究することが最高ではないかと考え、サーファーズパラダイス・サーフ・ライフセービングクラブ及びノースクリフ・サーフ・ライフセービングクラブ、またゴールドコースト市ライフガードサービスをその研究対象とした。

ゴールドコースト市

サンシャインステート “クィーンズランド州”を代表する国際観光都市

ゴールドコースト市の概要

面積

1,402平方キロ(米子市の約13倍)

人口

425,418人
(2001年6月30日現在  米子市の約3倍)
10年以内に50万人を突破すると予想されている

気象

亜熱帯性気候(年間287日が晴天)

気温

夏期 19から29度
冬期 9から21度

ブリスベン空港から南へ約1時間30分ほどのところに存在し年間の晴天率が300日以上というゴールドコーストは、青い海と白く輝く砂浜の海岸線が南北42キロメートルにわたって続く世界屈指のリゾートエリアである。その中心にあるサーファーズパラダイスは、高層ホテルやショッピングセンター、レストランなどが集まる都会的なリゾートタウンである。

ビーチではボディーボードやジェットスキー、パラセイリングといったさまざまなマリンスポーツが楽しめる。また、ワーナー・ブラザーズ・ムービーワールド、シーワールド、ドリームワールドの三大テーマパークをはじめとする個性豊かなテーマパークや体験型観光施設が市内に点在する。更に内陸部に行けば、世界遺産にも登録されている熱帯雨林や渓谷などダイナミックな自然を楽しむことも出来る。また、ホンダインディ300(公道を使ったレース)、全豪ライフセービング選手権やマジックミリオン(競馬)、ゴールドコーストトライアスロンやマラソン大会などの有名な各種のスポーツイベントも年間を通じて開催されている。

海岸線を中心にリゾートシティーとして発展した同市ではあるが、市の西側に続く運河を挟んで町並みは一変する。高層ビルが並ぶ海岸地区とは異なり、西側は高層ビルもなく実に落ち着いた町並みが広がっている。観光客を対象とした商業集積地の平坦で賑やかな海岸線と対照的に丘陵地の続く西地区のローサイドには中古車販売の店舗やコンピューター関連の地元企業が点在している。平均的なオーストラリア社会の雰囲気を感じることが出来る。

また、Griffith University,Bond Universitity,South Cross University Gold Coast Campus, Central Queensland University Gold Coast Campusなどの大学や研究施設が市内にはあり、教育文化都市としての機能面も充実している。

パトロール体制について

我々が今回訪れたサーファーズパラダイスは、コールドコースト市の東海岸約42キロメートルの北中部にあたる場所で観光地として有名であり、年間約350万人が訪れる。当初の目的はライフセービング活動(監視活動)に参加するということであった。しかしながら、日本では日本ライフセービング協会から認定された資格者であっても、オーストラリアではブロンズメダリオンという資格、又はそれと同等の資格を有するか、現地のライフセーバーによる試験に合格しなければ、活動には参加することは出来ないので、今回は各部署の責任者に話を聞きながらの研修となった。
オーストラリアには、監視員として「ライフセーバー」と「ライフガード」の2つの組織があり、互いに協力して監視活動を行っている。「ライフセーバー」はボランティア活動であり、「ライフガード」は市の職員(公務員)である。基本的には両者は同じ海水浴場事故防止を目的として活動しているが、「ライフガード」の方が、より高度な知識、技術や強靱な体力を要求される。

研修・調査結果

ゴールドコースト市におけるライフセービング活動は、クィーンズランド州政府が行う「ヘリコプターによる救助」、市が運営する「ライフガード」及びボランティアによる「ライフセービングクラブ」により行われており、三者の協力体制がしっかりと確立されて、効率的な活動が展開されている。

クィーンズランド州政府が行う「ヘリコプターによる救助」

クィーンズランド州救難防災課航空隊課長ロッド・エドワーズ氏によると、クィーンズランド州は4機のレスキューヘリを所有しており、「ライフガード」や「ライフセービングクラブ」による救助が困難で、ヘリコプターによる救助を必要とする場合に出動し救助活動を実施する。

ゴールドコースト市が運営する『ライフガード』

ゴールドコースト市地域・レクリエーション課ライフガード係長 ウォーレン・ヤング氏によると次の通りである。

組織

1900年初めにライフセービングクラブがボランティアで海岸の監視にあたっていた。  
しかしながら、毎年事故が多く、ボランティア活動としては、防止するのに限界があり、1978年に市が管理することでより安全な海岸の提供が出来るようになった。現在約120名のライフガードが勤務しており、ゴールドコースト市では年間を通じて、24時間体制(交代制)で対応している。
このライフガードという仕事は、オーストラリアをはじめ、欧米やアメリカでは公務員として認められており、職員全員が「ライフガードマニュアル」という専門書(学科・蘇生法・実技等)を完全に習得、また、年に2回体力テストと称して、スイム750メートル、ラン1600メートル、ボード800メートルを26分以内にクリアしないと職を失ってしまうほど厳しいものであり、日頃からのトレーニングや勉強はかかせない。予算は、人件費として360万オーストラリアドル(約2億5200万円)、器材費として60万オーストラリアドル(約4200万円)を計上している。

管轄区域

ゴールドコースト市内46箇所のビーチ(南から通し番号がふられている)の内、平日は41箇所を管轄していて、土日は21箇所のビーチを管轄している。
また、ゴールドコースト市の全ビーチ(46箇所)を3区画(北部・中部・南部)に分け、オペレーションセンター(7時30分から18時30分 2名体制)を中心にして全域を管轄している。
各ビーチには、黄色い屋根の2階建ての監視塔があり、大きく番号が表示されている。監視時間・時期は各ビーチによって異なる。

活動内容

すべてのビーチの責任はこのライフガードが持っていて、当日の朝、海象や気象状況を判断して、遊泳区域の設定を行い、その両端に黄色と赤でデザインされた旗を立てて表示している。
オペレーションセンターには、専用車両(ピックアップトラック)や各資器材を格納する倉庫がある。職員は、朝まずセンターに赴き、器材を準備してビーチへ向かい、ライフガード活動を開始する。勤務時間が終われば再びセンターに戻り、器材を格納し勤務終了となる。   
監視は、監視塔又は車両の中から行っており、遊泳区域から離れた遊泳者等に対してマイクやホイッスルを使用し、注意を促していた。残念なことに、日本人観光客は旗の意味がわからないために、旗と旗の間の区域を「イベント会場の表示」等と勘違いをして、遊泳区域外で遊泳するケースもあるという。
見学に行った監視所は当日3名の職員が勤務していたが、我々と話をしている間も必ず1名はビーチから目を離さずに監視していた。
ある職員は「事故が起きたときに、怖いのは二次災害で、溺者を助けようとして遊泳者が救助に行くのが一番危険である。自分たちはその前に救助に行くことが大事で、そのために集中して監視を行っている」と話していた(写真)。また、消防や警察、ライフセービングクラブとの連携は、とてもスムーズである。

使用資器材

救助器材としてレスキューボード・IRB(Inflatable Rescue Boats または Rubber Duckies ともいうエンジン付きのゴムボート)・ジェットスキー・レスキューチューブ・JRB(Jet Rescue Boatsモーターボート)等があり、救急器材としてパックマスク・ポケットマスク・人工呼吸器・DCカウンターショック(電気ショックを与える器具)がある。DCカウンターショックは、日本では心停止の場合に医師と救命救急士のみが行える行為であるが、オーストラリアではライフガード、ライフセーバーにも使用が認められている。なお、呼吸停止の場合に行う気管内挿管はオーストラリアでも救急車内で行われるということである(現在日本では医師のみが行うことの出来る行為である)。

システム

このようなシステムは、オーストラリア全土で、同様のシステムで行われているのか?という問いに対しては、ゴールドコースト市は、大きい市なので市役所に課として設置しているが、財源的に余裕のないところでは、個人経営のライフガード会社が設立され、様々な企業がスポンサーとなって対応している。
・市としての取り組み・・・「ライフセービング活動に対してゴールドコースト市はどのような対応をしているのか?」の問いに対しての解答は以下の通りである。

  1. 海岸の入り口すべてに注意事項を記載した看板を設置している。

  2. 各ホテルにポケットに入る大きさのパンフレットが配布され、これにも注意事項等が記載されている。

  3. 小・中・高校等にも様々な趣向を凝らしたグッズを配布することで、海の知識や注意事項などをわかりやすく説明し、またライフセーバーやライフガード、強いてはライフセービング活動への理解を広めている。

その他

海浜清掃については、清掃業者が毎朝行うためにライフガードはいっさい行わない。
また、日本では国民皆保険なので無料で緊急車を呼べるが、オーストラリアでは任意保険であるために、ランクの高い保険会社に加入していると、毎週2オーストラリアドルが自動的に緊急車を利用する金額として差し引かれているので無料であるが、ランクの低い保険会社の加入者や未加入者は、1度呼ぶと200オーストラリアドルが必要であり、さらに走行距離で1キロメートルごとに金額が加算され、大変な金額が要求される。

ボランティアによる『ライフセービングクラブ』

今回は、ゴールドコースト市の観光の中心部となるサーファーズパラダイスにある「サーファーズパラダイス・サーフ・ライフセービングクラブ(以下SPSLSCと略す)」及びそこから南へ約1キロメートルの比較的閑静な住宅地にある「ノースクリフ・サーフ・ライフセービングクラブ(以下NCSLSCと略す)」を訪問・調査した。

組織

SPSLSCで対応してくれたのは、ピーター・マクマホンであり、NCSLSCでは、スチュワート・ホッグベンである。ピーターはSPSLCのチーフ・インストラクターで、その日の責任者であった。また、IRBドライバーの資格を所持していて、緊急時には、IRBで救助に向かう。 SPSLCは、1925年に設立されたオーストラリアでも歴史のある大きなクラブである。一方、NCSLCは、1847年に土地開発者がその土地を開拓した名前をクラブ名にしたもので、比較的新しいがクラブ員数は多い。
各クラブにはクラブハウスがビーチ沿いに建てられ、毎日様々な年齢層の客(クラブ員や観光客等)が訪れ賑わっていた。どのクラブでも利用者は入り口でメンバーシップカード(写真)に名前、住所等の必要事項を記入してから入場できるシステムになっている。このカードは複写式になっていて、利用者の目的がわかる仕組みになっており、保管されている。店内にはTシャツなどのグッズを売るショップやレストラン、酒類を扱うバーの他に、カジノやスロットマシーン、競馬等の娯楽施設を備えているクラブもあり、各クラブ毎に様々なクラブ運営が行われている(詳しくは、クラブ運営の項に記述)。

管轄区域

基本的には、土・日にゴールドコースト市から割り当てられた区域を各ライフセービングクラブが管轄している。しかし、緊急時には要請に応じて他のクラブの応援に行くこともある。

活動内容及び器材

活動内容は、基本的に「ライフガード」と同じであるが、ボランティアであり、人数は常時10名程度、朝5時30分から海岸に出て遊泳区域を決定し、器材等を配置する。朝6時30分から13時と12時30分から18時の2交代制で、その日のパトロールキャプテンが各自の能力を考慮して配置し、監視活動に入るシステムをとっている。これは、IRBやジェットスキーなどの救助器材の使用には資格が必要であり、各自の有する資格や能力に応じてバランス良く配置することにより、効率的な監視活動や救助体制をとれるように工夫されている。また、公務である「ライフガード」とは異なり、自分の任された海や海岸を
守るボランティア活動のために様々な人が活動していた。中には、平日「ライフガード」として勤務し、週末には、「ライフセーバー」として自分の休日をボランティア活動に費やしている人もいれば、障害を持っている人(右手首から先を無くされた方)が、救助活動は出来ないまでも、その人が出来得る活動をされている姿には感銘を受けた。これは、ライフセービング活動の原点でもあり、全ての人に受け入れられている証である。
器材は、基本的に「ライフガード」が使用している物と同じであるが、遊泳区域が日々変わるために可動式のタワーを使用している。器材は全てトレーラーの中に入れられて浜の中央部に置かれ、メンバーの待機所として活用されていた。また4輪バギーがあり、浜辺を迅速に移動する際に使用されるなど、機材を有効に利用する効率的な監視体制を取っている。

救助訓練

説明をしてくれたマクマホン氏によると、IRBでの救助に要する時間は約90秒であり、実際の救助活動(デモンストレーション)を見せてくれた。迅速確実な方法であり、救助する側もされる側も一番早く安全な方法であると聞かされた。なお、当日の海の状況は、風(風速15から20メートル)による波が、海岸線と平行に3から4段階に分けて高いところで約2.5メートル立っていた。私の感覚では、波は高いものの恐怖心は無かったが、実際海に入ってみると、水深は海岸線と平行に深くなったり、浅くなったりしており、更に潮流が速く、下半身が浸かった状態では、立っているのが精一杯であった。このような状況下での救助を迅速に行うには相当の技術や訓練を必要とすることが容易に推測される。

クラブ員の救助技術・体力維持について

ボランティア活動ではあるが、人命に関わる活動であるため、クラブ員には「ブロンズメダリオン」というオーストラリアのライフセービング協会が認定する資格の取得が最低限義務づけられている。また、各クラブごとに技能検定のようなものがあり、個人の体力、技術、知識、活動年数により、さらに上級の資格を取得できる制度があり、各自が向上意識を保つようなシステムになっている。

その他

1 コンペティション(競技)の考え方

ライフセービング界にも大会が開催されている。日本では、一昨年ワールドゲームが秋田県で開催されたが、ライフセービングもプール競技・ビーチ競技・オーシャン競技で争われた。
これは、ライフセービングを普及しようとすることもさることながら、それ以上に各クラブ・個人の体力・技術の向上を競技会において競わせることでさらなる向上心を養い、トレーニングに励み、知識や技術を習得し、安全な海岸を提供することを目的としている。よって、競技内容は全て救助活動を想定したものから成り立っている。ジュニアプログラムのところでも述べるが、競わせることによって更なる飛躍が期待できる。年少時期から海に入り、波にもまれ、砂浜を走り、自然と戯れる。それによって、どんな
状況の海でもひるむことなく向かうことの出来る強靱な体力と精神力が養われる。
全豪選手権や世界選手権などはテレビや雑誌等でも取り上げられ、人気スポーツのひとつになっている(日本でいえば、Jリーグやプロ野球と同じ)。強くなれば、どの世界でもプロという世界がある。ライフセービング界でも同様であり、強い選手にはいくつものスポンサーがつき、その選手が活躍することにより、スポンサー側も有名になっていく。
今回訪問したSPSLSC及びNCSLSCにも、共に世界的に有名な選手が多数いる。これは、ジュニア期からのプログラムの成果であると感じられる。マーク・ウィリアムスは、昨年の世界選手権においてナンバー1のタイトルを取った選手としてクラブハウスには、写真が飾ってあり、オーストラリアでも有名な選手の1人である。しかしながら、大会に出場するためには、最低20時間以上の監視(パトロール)活動が義務づけられている。これは単に大会に重きを置くのではなく、あくまでもライフセービング活動の中の競技として認識され、事故防止が永遠のテーマとして競技者の中に培われている証であろう。
余談ではあるが、「競技に勝つために、一生懸命トレーニングし、自分を鍛える。そして、その勝利を得たとき、その鍛えられた身体が初めてレスキューを可能にする。つまり、自分のために鍛えた身体が、いつの間にか他者のために尽くすことに繋がっていることが素晴らしい。だから私は一生懸命トレーニングをする。つまり、競技のナンバー1はレスキューのナンバー1である。」と元オーストラリアのアイアンマンチャンピオンも言っている。

2 『ライフガード』と『ライフセービングクラブ』の協力体制

「ライフガード」がゴールドコースト市内全海水浴場を管理しているのは前述した。従って彼らはプロとして監視活動と救助活動等を行っている。しかしながら、「ライフセーバー」のほうは、ボランティアで活動を行っている。この両者の間には壁があるのであろうか?その問いに対し、「ライフガード」のヤング氏と「ライフセーバー」のマクマホン氏からは同じ解答が返ってきた。
「No problem」(問題ない)。
それは、「ライフセービングクラブ」と「ライフガード」が一緒に活動する土・日は、交互にそれぞれを配置し、監視を行うことにより、より安全な環境の提供が出来るシステムをとっていることで推測できる。また、両者とも同じ周波数の無線機を使用して、連絡・連携体制の確保が出来ている。事故発生時に人手が足りない場合は、協力し合って対応している。この無線機は、両周波数を変えることで、ヘリコプター、警察、消防機関などへの連絡も可能であり、緊急時の迅速な対応が可能となっている。

ジュニアプログラム

ライフセービング活動を一般市民に普及させるためには、子供の頃から水に親しみ、安全で楽しく過ごせる環境を提供することが重要である。このような活動を「ジュニアプログラム」・「ジュニアアクティビティ」と呼び、どのクラブでも定期的に行われている。今回はSPSLSCの活動を見学した。

育成プログラムセミナー

各クラブにより、年齢区分や内容は異なるが、SPSLSCでは、以下の区分に分けられて実施されている。会員数は約70名でゴールドコースト市にあるクラブとしては少ない方であり、200名以上のジュニア(ニッパーズ)を育成しているクラブもある。年齢区分は、5才以下、6から8才、9から10才、11から12才、13から14才、15から18才の各カテゴリーに分けられ、それぞれの年齢に合ったプログラムが組まれていた。説明してくれたのは、SPSLSCのチームマネージャーのデニス・マヘロン氏で教育活動プログラムの責任者である。彼はソフトボールのオリンピック選手でもある。競技者を一段落した社会人がライフセービング活動に取り組み、後身の指導に当たっている。日本では自分の専門スポーツ以外のものに社会人になって取り組むのも珍しいし、指導者になるのもまれなことであり、ここでもライフセービングの素晴らしさを感じた。ほとんどのカテゴリーが競技形式で行われており、子供達はお互いに競うことによって楽しくプログラムに取り組み、ライフセービングの魅力を自然に理解できるように計画されている。内容は、以下の通りである。

1) 5才以下

ビーチ競技(ビーチフラッグス・ビーチラン等)が主で、ライフセービングを理解することが困難なため、競技を通じて興味を持たせることに重点が置かれている。海には、まだ入らせない。

2) 6から8才

ビーチ競技(ビーチフラッグス・ビーチラン等)が主だが、波打ち際(膝くらいまで)をランニングして(ウェーディング)砂浜や波など普段のランニングとの違いを認識させている。

3) 9から10才

ビーチ競技・オーシャン競技(スイム)・クラフト競技(ボード)のトレーニングを一通り行っている。この年齢層は、競技に興味を示してくる年代なので、クラブ対抗などの大会に参加させ、よりライフセービングに興味を持たせるようになっている。

4) 11から12才

全ての競技種目を行い、各種目の距離も長い。アイアンマンレース(ラン・スイム・ボード)も行っている。

5) 13から14才(Active Cadets)

11から12才同様、全ての競技を行っている。この年齢層になると競技能力は大人顔負けのレベルである。様々な大会があり、全豪選手権等も開催されている。この年齢層になると、競技以外に監視活動にも重点がおかれる。ライフセーバーの資格(ブロンズメダリオン)を取得するためには15歳以上という年齢制限があるため、有資格者と共に監視活動を行っている。ここで、海の状態や知識・技術等の教育を受けている。

6) 15から18才(Active Junior)

更にレベルが上がり、今まで培った知識や技術でブロンズメダリオンを取得するための検定を受けることが出来る。検定に合格するとライフセーバーとしてライフセービング活動に参加できる。

SPSLSCでのトレーニングは、おもに日曜日の午前中に行われている。海だけでなく、プールや河川などの様々な環境下でのトレーニングも行っている。昼食はクラブハウスでバーベキューを行い、親子やボランテイア達が年齢を超えた交流を行い、クラブ内の密接な交流を図っていた。
参加しているニッパーズは皆楽しそうに、また、一生懸命競技に取り組んでいる姿が印象的であった。
数人に話を聞いてみると参加する動機はさまざまで、「お父さんがやっているから」、「ライフセーバーになりたいから」などの答えが返ってきた。また、「将来何になりたい?」の問いには、「ライフセーバー」、「ピアノの先生」などの様々な答えが返ってきた。これは、ジュニアプログラムが決してライフセーバーの育成のみに重点がおかれているのではなく、日本でいえばスイミングスクールや塾等の感覚で、社会的に認知されたものであることが伺えた。

スタッフ

スタッフの構成は、クラブ員が主体となり、Water Safetyと書かれたオレンジ色のラッシュガードを着て、指導及び監視にあたっている。保護者も同様に役割分担されており、各パートに分かれて無駄のない運営を行っている。家族で参加して活動しているという雰囲気があり、一体感が感じられる。

その他

育成プログラムのほかに、社会活動も積極的に行っている。我々が見た光景は、活動終了後、数人のニッパーズとライフセーバーが一緒に街の中を歩き、観光客や地元の人にライフセービング活動の認知と普及のため、募金活動をしている姿である。これは、クラブ運営の一環として、大会やイベント等がある週に行い、遠征費や運営費に充てるということである。彼らは、幼いながらもライフセーバーとしての自信に満ちあふれた表情と態度であり、堂々としていて感心させられた。
また、クラブ員の会費だが、日本では1人いくらという考え方が主流だが、このクラブでは1家族120オーストラリアドル(約8500円)と決められていて、家族で参加しやすい環境が整っていた。

教育システム

幼い頃からライフセービング教育を行うことは大切で、オーストラリアでは、日本の火の用心や信号機の色の指導と同様に、遊泳区域を示すフラッグの意味(色によって違う)の教育を行っている。また、市が教育グッズを作成して学校や自治体に配布したり、実際に学校や自治体へ出向いての指導や講習会も行っている。ライフガードをキャラクターにしたキャンペーングッズも用意されており、子供達が興味を持ちながら学習できるようなもの、ファーストエイドの方法も記載されている。以下に列記する。

★ グッズ 

1 ぬりえ&クイズ(10ページ)

  • フラッグや注意看板の色分け
  • ライフガードの職業紹介
  • 助けてサインやファーストエイドの紹介
  • 日よけ対策

2 メモ帳
3 マグネット
4 ステッカー
5 シール(日よけ対策が書かれている)
6 風船(フラッグの間で泳ぎ、ライフセーバーの指示に従うという意味の絵が描かれている)

クラブ運営について

1.組織関係

パトロール活動の項目でもふれたが、ゴールドコースト市では、市の職員としてのライフガードとライフセーバーが存在する。ボランテイアで構成されるライフセービングクラブは日本におけるライフセービングクラブとは様相が大きく異なる。クラブ自体が株式会社のように社会的にも経済的にも完全に自立している。例えばノースクリフSLSCの組織構成を例にあげると、後援者(Patron)、社長(President)、代表者(Deputy)が各1名づつ、副社長(Vice President)が29名、財務担当の副社長が1名、運営担当の副社長が1名、ライフセービング担当の副社長が1名、サーフスポーツ担当の副社長が1名、以下ライフセービング活動におけるキャプテン1名、副キャプテン1名、チーフインストラクター1名、アシスタントインストラクター1名、ラジオオフィス責任者1名、ファーストエイド責任者1名など36の分野に細分化されてそれぞれに責任者が1名就任している。クラブ会員は活動状況やクラブへの貢献度、年齢に応じて20歳以上の成人では7クラスに分類され、20歳未満では19歳以下、16歳以下、14歳以下、13歳以下、12歳以下、11歳以下、10歳以下、9歳以下、8歳以下に分類されている。この組織体制は、各クラブの規模の大きさや、経営方針により若干異なっている。

2.財務関係

前述のように、ライフセービングクラブはひとつの会社として成り立っており、種々の経営を行っているが、その内容は各クラブによって異なる。例えば、我々が最初に訪れたサーファーズパラダイス・サーフライフセービングクラブは、海岸のほぼ真中の繁華街に位置しているため、クラブ員の会費以外に、国内外の観光客を対象に、レストラン、バーの経営と、ゴルフ、スクーバ・ダイビング、ウォーターポロ、サーフィン等のレッスンを行い収入を得てクラブ運営に当てている。一方、次に訪れたノースクリフ・サーフライフセービングクラブは、繁華街から離れた場所に位置しているために一般の観光客の姿はほとんどないが、地元でも伝統のあるクラブであり、レストラン、バーの他に、ゲームセンターやカジノ、競馬が楽しめる娯楽施設が完備されており、地元の方に愛され、利用されている印象を強く受けた。ここは、客層も年配者が多く、昼間から多くの人が集まって楽しんでおり、地元密着型のクラブ運営がなされているという印象を受けた。各クラブにはそれぞれ個人会員からの会費以外にも、会社や各種団体からの賛助会員制度があり、例えばサーファーズパラダイスSLSCの場合は、1000オーストラリアドルの小規模な会社から、5000オーストラリアドル、20,000オーストラリアドル、50,000オーストラリアドル以上まで会社の規模に応じて会員をつのっている。ゴールドコーストに存在するクラブの中には経営的に成功して多くの収入を挙げているクラブと、そうではないクラブが当然存在する。年度末の決算で、経営が苦しいクラブに対しては、その他のクラブからの援助があり、協力し合って、全体として個々のクラブがまとまってゴールドコースト全体のレスキュー活動が円滑に行えるようになっている。また、各クラブには政府から毎年20.000オーストラリアドル、ゴールドコースト市からは5,000オーストラリアドルが支給されており、それ以外にも優秀なクラブや選手に対してはスポンサーからの融資が行なわれており、そのクラブまたは選手が活躍することがスポンサーのイメージアップにもつながるため、各スポンサーからこのクラブ(または選手)を支援することに誇りを持っていると、器具や監視小屋となっているコンテナに明記してあることにも驚かされた。ライフセービングがオーストラリアでいかに重要視されているのかが容易に推測できる。

考察

海の状況が日本の静かな海とは違い、非常に危険な状況にもかかわらず、多くの人がその環境を受け入れた上で遊泳していることに驚いた。日本では、間違いなく遊泳禁止になる環境下でである。このような危険な環境であるから、ライフセービングの理念「事故を防止する」が自然に受け入れられて今日のように発展していったとも推測できる。また、オーストラリア政府をはじめ、各州・各市において、ライフセービングの必要性が重要視され、政府主導の元、各地域に合ったライフセービング活動が展開されていることに驚きを隠せない。「人の命より大切なものはない」と誰もが思っていることだが、ボランティア活動では限界もある。このように市、州さらには国が責任の取れる方針を出して、海水浴場の整備・監視員の配置などマネージメントしていく必要がある。事故が起きてからでは遅いのである。
今回の研修で、ライフセービング活動がなぜオーストラリアをはじめとする国々で普及し、市民・国民に認められ今日のような活動に至ったのか、改めて認識できた。四方を海で囲まれている環境は日本も同様である。地域性(9月から4月までと泳げる期間が長い)とか、国民性の違いも多少なりとも関係があるのかもしれない。しかし、ここでそれを論議するより、どのようにして普及させ、安全で快適な海水浴場の提供が出来るかを考えなければならない。
海水浴場は、市町村の管理下で開設することが出来る。いわば公共施設としての役割を担っているといえる。もし、現在ある公共施設で事故等が起きてしまった際にはどのような対応をするであろうか。想像して頂きたい。決して簡単にすませるとは思えません。施設の改善や職員等の対応の仕方等改善して良くしていくはずです。海という自然を相手にしている海水浴場は、『事故=死』という確率が非常に高いのは、周知の事実である。
子供達は荒れた海でセミナーを行い、自然との触れ合いの中で、水に対する恐怖心を自然の観察力や知識、技術に変え、ライフセーバーとしての資質が養われていく。ゴーグル等をつける子供はほとんどなく、非常にたくましく思えた。ライフセービング活動が身近で親しみやすい環境にあり、このジュニアプログラムは、ライフセービング競技を通じて人を思いやる気持ちなどを養い、一人の人間としての人格形成を行う教育の一環としてのプログラムであることを痛感した。将来世界チャンピオンを目指して取り組んでいる子供もいれば、そうでない子供もいる。どのスポーツでもそうだが、1番になることを目的に行うのではなく、その活動自体が社会的に意味のある活動として受け入れられることが重要である。教育プログラムは、海が近くなければ出来ないという環境に左右されることなく、各学校や自治体が年齢や人数に合わせて様々な形で取り組むことが出来るように思われる。近い将来、このような活動が学校から、また地域から普及して発展し、親から子へ、子から親へ伝わり、事故のない環境が出来ることが望まれる。
オーストラリアをはじめ、ライフセービング先進国では、「事故を防ぐ」という理念が広く国民に浸透している。米子市(ひいては日本)では、危険なことは理解している。しかし、危険だから、行かない・行かせないという考え方が主導に立っていると思われる。確かに近づかなければ危険は無いであろうが、危険である自然(海)に知識や経験の乏しい状態の者が身を置くとなれば、危険度は高いままであり、二次災害等を招く恐れもある。一人一人が自然に関する知識や経験を身につける環境や機会の提供が出来れば、未然に防ぐことが出来るのではないであろうか。
個人の問題として考えなければならないのは当然であるが、それ以上に公共施設(海水浴場)を抱える行政としての取り組み方も必要である。安全で快適な海水浴場を提供して、アピールするならば、まず監視体制や救急体制の整備が急務であると思われる。
このような活動を「日本と環境が異なる国でのこと」と言われればそれまでであるが、ここで真剣に考えなければならない事は、ゴールドコースト市が海を大きな財源とする観光都市であり、その海を快適で安全な場所として提供するために、ライフセービング活動がいかに重要なことであるかを、ゴールドコースト市のみならず国家が認めているという事実である。米子市も観光都市としての活路を見出すためには、何がアピールできるかを考え、そのためには何が必要であるかを真剣に考える必要があると思われる。海、温泉という恵まれた資源を有効に活用していくためには、行政、住民、企業とライフセービング活動が一体となって協力していくことが不可欠であり、そのためにも、今回のオーストラリア研修について、各方面からの積極的な理解と参与を切望してなりません。

おわりに

今回訪れたサーファーズパラダイスにおいて、我々は想像以上の成果を上げることが出来た。パトロール体制では、プロとして監視業務にあたっている意識の高さに、またボランティア活動をしている人たちの自信に満ちあふれた表情やそれにも増して、救助体制・監視体制の徹底、それをサポートする住民・市・国のあり方など日本では想像しがたい環境に驚かされました。それは皆がそれぞれの責任を全うしようとする意識の高さに基づいていると思われる。
ジュニアプログラムでは、子供達の真剣なまなざしの中に「ライフセーバー」としての自覚やまたそれを支える家族・ボランティア(ライフセーバー)・そして地域のあり方。命を救うスポーツとしてライフセービングを捉え、学校などの教育機関や自治体にも足を運び、普及・啓蒙活動を一生懸命していることなど、今後米子市から全国にこうした取り組みを情報発信地していく必要があると感じた。
またクラブ運営では、地域密着型のクラブ経営のあり方。特に米子市では現在日本アマチュアサッカ ーの最高峰リーグに参戦しているSC鳥取が活動を行っています。そのような地域を代表するスポーツ クラブへの支援体制が、ライフセービングクラブにも必要なのではと感じました。地方は地方なりの特徴を行えば出来ないことではない。逆に小さな地方自治体だからできるきめ細やかなサービスがあるのではないでしょうか。ましてや、観光立県を標榜する鳥取県を代表する観光地である皆生温泉を抱える米子市にとって海水浴場は県外から多くの観光客を誘客する極めて重要な観光資源であるだけでなく、地域住民にとっても手軽な夏のレジャーとして広く利用されております。そうした観点からすれば皆生温泉海水浴場は自然の素晴らしい公共施設であると同時にそこにおける安全管理体制は米子市にとって行政サービスとして提供する最低条件ではないかと感じました。
このように、実際我々が渡豪前に抱いていた意識には明らかな変化が見られ、より先進的な考え方が身に付きました。今後米子市をはじめ、各市町村、また県に要望なり訴えをしていかねば、今までの環境とさほど変わりのない状況で終わってしまうと感じました。
また、我々の精神の中に「ライフセービング」に対する気持ちが大きく宿り、1人1人が責任ある行動・言動で米子市皆生温泉をはじめ、海水浴場開設者に快適で、安全な環境を提供することを訴えていかなければならないこと。また、それにも増して、地域住民の理解・参加も求めて行くことの重要性を強く感じました。換言すれば誰にでも参加できる活動としての認識を普及することの重要性を再認識しました。
最後になりましたが、今回このような機会を与えてくださった米子市、それを支える住民の皆様に厚くお礼申し上げます。
事故が起こる前に・・・・・我々はこの思いで頑張っていきます。

謝辞

今回オーストラリア研修にあたり、お世話になった日本ライフセービング協会理事長 小峯 力氏、協会事務局の皆様、神奈川県ライフセービング連盟理事長 相澤 重男夫妻、ゴールドコースト市ライフガード課係長 ウォーレン・ヤング氏、ゴールドコースト市ライフガードの諸氏、クィーンズランド州救難防災課航空隊課長 ロッド・エドワーズ氏、サーファーズパラダイス・サーフ・ライフセービングクラブ チーフ・インストラクター ピーター・マクマホン氏、サーファーズパラダイス・サーフ・ライフセービングクラブの諸氏、ノースクリフ・サーフ・ライフセービングクラブ スチュワート・ホッグベン氏、マーク・ウィリアム氏、ノースクリフ・サーフ・ライフセービングクラブの諸氏、FORCE FIELD ドゥエイン・タイズ氏、カサンドラさんにこの場を借りて深謝いたします。

アメリカの野生生物保護区などにおける
野生生物教育についての研修

訪問先  アメリカ合衆国(サンフランシスコ、フロリダ)
期間  平成15年2月8日から16日

桐原 佳介

1.はじめに

私は、米子水鳥公園の現在の活動を見直すと同時に、子どもたちに楽しく自然環境や野生生物のことについて伝える技術を学ぶ為に、この度の海外研修制度に応募した。そして、自分の目でサンフランシスコやフロリダの野生生物保護区や環境教育施設を視察することによって、様々なことに気付き、多くの事を学んだ。

2-1.サンフランシスコの環境教育施設

サンフランシスコでは、主に子どもたちに楽しく物事を伝える為の、展示の工夫について学ぶ事ができた。視察した施設の展示に共通していた点は、手で操作する展示(hands on)が主体となっていることである。

「ハンズ・オン展示」の一例    親子で漁師ごっこが楽しめる

展示の工夫として、まず最初に見たときに、展示の意味を視覚イメージで受け止めることができるようになっている。これらの展示のデザインには、高度な美的センスが感じられ、今後、展示物を作成するに当たって大変参考になった。

2-2.視覚で印象付ける展示

特に印象深かったのは、コヨーテ・ポイント・ミュージアムの展示である。この博物館の展示は、いずれも展示を見ただけで展示で伝えたい事が視覚イメージとして捉える事が出来るように工夫されていた。その中に、一羽のタカが一生涯の間に食べる動物の数を示した展示があった。おびただしい数の動物たちが折り重なり、高く山積みされている頂上に、タカが一羽飛んでいるのである。

タカ1羽が生きていくのに必要な獲物の数を紹介した展示

これを一目見ただけで、見学者にタカ1羽が生きていくのに必要な餌の量を強烈に印象付けることができる。大変効果の高い、すばらしい展示だと思った。

2-3.指導者の養成

もう一点興味深かったことは、学校の先生に対する教育活動である。今回視察した施設では、いずれも指導者養成プログラムがあり、学校の先生があらかじめ施設の指導者養成プログラムを受ける。そして先生が、実際に生徒を引率して施設を利用する際に、施設のスタッフが付き添わなくても、先生だけで効果的に子どもたちを指導する事ができるように訓練されていた。コヨーテ・ポイントミュージアムでは、館内のところどころに木製キャビネットが設置されていて、その中には子どもたちを引率してきた先生が自由に使える小道具が納められていた。

教師が利用できる小物を収納したキャビネット

引率の先生は、博物館のスタッフから指導者養成プログラムを受けることによって、これらの小道具を有効に活用できるようにトレーニングされている。

3-1.フロリダの環境教育施設

フロリダでは、主に自然環境を生かした体験プログラムの手法について学ぶ事ができた。エバーグレース国立公園では、湿地帯を中心とした、公園内の特徴ある自然環境を見学できるようにトレールが整備してあり、解説パネルが設置されていた。
エバーグレース国立公園内には、いろいろなトレールが整備されているが、いずれもフロリダの多様な自然環境を象徴する場所に設置してあり、それぞれの環境の特性が分かりやすいように工夫してあった。アンヒンガ・トレールでは、トレールの名前にもなっているアンヒンガ(アメリカヘビウ)などの水鳥やアリゲーターなど、間近で野生生物を観察する事ができた。

アンヒンガ・トレール

3-2.ハリケーンによる被害

トレールの多くは、1992年にフロリダに上陸したハリケーン「アンドリュー」によって壊滅的な被害を受け、再整備されているものばかりであった。

ハリケーンによる被害の解説パネル

トレールの木道に使われている素材には、木の粉を樹脂で固めたリサイクル素材が使われていた。殆どの木道が、1992年のハリケーンで破壊されているなかで、マングローブ林の中に設置されていた木道は殆ど被害を受けておらず、古いままであった。この事からも、自然のエネルギーの凄まじさと、それに耐える自然植生の逞しさを感じ取る事ができた。

3-3.NPOが運営する環境教育施設

ビッグパインキーにあるシーキャンプは、フロリダ湾の豊かな海洋環境を生かし、ボートでサンゴ礁に行ってみたり、シュノーケリングによって海洋生物に直接触れて、生態系について体験から学べる施設だった。

ボートに乗ってフロリダ湾の自然を観察    昼食を食べながらの談話

この施設は、NPOが独立採算で運営しているが、その規模の大きさと、毎年、世界各国から環境学習のために沢山の人が訪れている実績、環境教育の指導者を育成する労力や費用を惜しまない姿勢に感服した。

4.今回視察したアメリカの環境教育施設の特徴

サンフランシスコやフロリダの環境教育施設や野生生物保護区は、広大な自然環境の特性を生かして、子どもたちを実際に自然の中に連れて行き、そこに生きる生き物たちに触れたり、生き物が住んでいる環境そのものを実際に観察させている。

トレールを歩きながら、マングローブについて解説するパークレンジャー  塩田跡地で生きる植物を観察

そして、その指導者達は、常に「生態系」の概念を基本として、生き物同士のつながりを伝えようとしている。このことは、米子水鳥公園で行っている活動と考え方が同じである。ここでも、ハンズ・オンの考え方が浸透しており、プログラムを行うに当たってのワークシート(自分で書き込みができる学習ノートのようなもの)を用意している。とにかく、指導者側から一方的に子どもたちに情報を詰め込むのではなく、指導者が子どもたちの興味を引き出し、子どもたちの反応を見て適切に答える、という姿勢が大切であるということを実感した。

5.プロジェクト・ワイルド

アメリカで開発された、野生生物を教材とした環境教育プログラム「プロジェクト・ワイルド」が現在注目されていて、その日本版が国内でも普及されている。プロジェクト・ワイルドは、今回視察した施設でも導入されており、各自でさらにアレンジを加えて利用されていた。

プロジェクト・ワイルドをアレンジしたプログラムの披露    プロジェクト・ワイルドをアレンジしたプログラムの披露

私は、米子水鳥公園で生き物同士の繋がりを子どもたちに伝えるに当たり、プロジェクト・ワイルドが大変効果的だと考えている。来年度中に是非その講習会に参加してプロジェクト・ワイルドについて学び、米子水鳥公園にも導入する予定である。

6.おわりに

「ハンズ・オン展示」や「体験による学習」などという言葉は、「知識」だけは持っていたが、この研修によってはじめて「理解」することができた。

    

そして、現在米子水鳥公園で行っている活動は、今回視察した施設と比較しても、決して見劣りするものではなく、方向性も間違ってはいないと思った。その一方で、子ども達に自ら何かを発見させるような工夫が足りない事、視覚で印象付けられる展示手法が欠けていることにも気付いた。これらの点について、プロジェクト・ワイルドのプログラム導入や、水鳥公園見学ノートの作成、観察会で分かりやすく解説するための小道具を利用するなどして改善し、米子水鳥公園を日本屈指の環境教育施設にしていきたいと思う。

掲載日:2011年2月25日